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サラムサラン<19> 愛の正体 それは人
2010-03-17
 一昨年から昨年にかけ、2冊の拙著が韓国で翻訳出版されたが、現地の書評に「韓国への愛に溢れた」と形容されることが多い。英国に10年も暮らした身としては、韓国だけを贔屓にするわけではないとの思いもあるが、訪韓歴も50回は下らぬのだから、惹かれているのには違いない。

 では、私にとって韓国の魅力は何か‐。愛情の核となるところを探っていると、ふたつのことが浮かび上がってきた。

 ひとつは、真っ直ぐで凛とした志である。「死ぬ日まで空を仰ぎ 一点の恥なきことを」と詩に詠んだ尹東柱は、こうした至純の志の代表格だ。ささやかな人生の風景において、信念を抱き、節を曲げずに生きている人を見ることは、この国では少なくない。

 おそらくは歴史的に社会が抱えてきた厳しさとも関係があろうし、王朝時代から奉じてきた儒教の影響もあるだろう。妥協を知らず、時に融通がきかぬようにも見えるが、それは和をもって尊しとなす日本的な感性が抱くやわな感慨でしかあるまい。曇りなき志が発するクリスタルな光は、この国の精神風土に香気の薫風を通わせている。

 いまひとつは、人々の胸に湛えられた溢れんばかりの情である。それは例えば、オモニ(母)の愛に代表される。日本にも無論、母の愛は存在するのだが、全身全霊をかけてといった過剰さは、韓国のオモニに顕著なように見える。海のように広く深く、時に火のように激しく燃える。

 母だけではない。友情にしても、情愛は濃厚で熱い。スマートでなく、無骨なほどだが、溢れる情愛の輪のなかに抱きとめられると、ひどく心地よい。

 私が韓国にここまで親しむようになったのは、「韓の国の家族」という本に書いた陶芸家の趙誠主氏とその家族との交流に負うところが大きいが、考えてみれば、志については伝統陶磁器の復元を目指す趙さんから、母の情については心優しき夫人から教わったようにも思う。

 ある意味では、この国の男性原理と女性原理を代表する精神美、徳というものを、私は家族との触れ合いのなかに自然と学んできたことになる。古来、陰陽の道の盛んな国なだけに、21世紀の今でも、両者が合わさり、うまくミックスされると、えもいわれぬ魅力が輝き出す。

 食事が美味だ、韓流ドラマも面白いと、美点は多々あろうが、韓国の魅力の中心は「人」にある。かくて、50回以上も訪韓を重ねながら、いまだに観光名所はろくに知らないという「偏愛」が生ずる。韓国は、それほどに人が面白い。

多胡 吉郎

(2010.3.17 民団新聞)
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