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文在寅大統領の韓国 対日政策の行方…菅野朋子氏(ジャーナリスト)

 
ツートラック外交 理解する必要

 相互訪問が突破口?
 市民の交流拡大が下支え

 日本と韓国の関係の振り子はずっと、良い方向に振れたと思ったら、また逆戻りすることを繰り返してきた。

 長い歴史の中ではそれも当然なことなのですよ、と昔、高麗神社の高麗文康宮司がおっしゃった言葉がしみじみと思い出される。

 一年前、日韓関係の行方は、まったく予測不可能だった。長年の問題だった慰安婦問題をようやく合意に持ち込んだ(2015年12月)朴槿恵前大統領は弾劾訴追され、次期大統領として一番に名前が挙がった文在寅大統領はこの「慰安婦合意」を再交渉すべき「積弊清算」として掲げ、日本に厳しい、断固とした立場を表わした。

 日韓関係はまた冷え込むのかと韓国の外交関係者に文大統領の日本観について訊いてみると、「本人より、側近といわれる人たちが日本には関心がない、日本との摩擦が起きた場合、極端な政策をとるかもしれない」と悲観的に見る人もいれば、「現実に日本をないがしろにすることはあり得ない。大統領になれば柔軟な対応にシフトする」と楽観視する人もいて、もやもやとした霧の中に放り込まれた感じだった。

 そうして、固唾を呑んで迎えた「文大統領時代」は、日本側から「拍子抜けした」という言葉が漏れるほど憂慮は杞憂に終わり、文大統領は就任直後から安倍首相との対話に柔軟な姿勢を見せた。就任してから昨年末まですでに2回の首脳会談を持ち、電話会談も9回重ねている。2011年を最後に中断していた1年に一度相手国を訪ねる「シャトル外交の復活」についても合意した。

 もちろん、北朝鮮の核・ミサイル問題などで日韓の連携が強く求められていることなども背景にあるが、朴前大統領が3年6カ月もの長い間、日本との対話を頑なに拒否していたこととはあまりにも対照的だ。

 文大統領を警戒していた日本も様子見の格好となり、韓国の外交関係者の間では、「シャトル外交により対話の窓口が開ける」と明るい雰囲気が広がった。

 ところが、そんなムードに水を差したのが、昨年11月に訪韓したトランプ米大統領の晩餐会での出来事だ。「独島エビ」が饗され、元慰安婦ハルモニが招待されたことに日本の菅義偉官房長官はすぐに「適切ではない」と韓国に不快感を表わし、日本の外務省も韓国に抗議した。日本はひどく憤慨した雰囲気になったという。これは青瓦台の判断で行われたと伝えられたが、本質からかけ離れたところで反目するのはばかばかしい話ではないだろうか。

 「共同宣言」から20年となる年に

 折しも、今年は日本と韓国の歴史をかえた「日韓共同宣言」が結ばれてから20年になる。

 思えばこの宣言から韓国は禁止していた日本の大衆文化の開放を段階的に行い、この時に設立された留学制度などで相互交流の機会は格段に増えた。

 その後、日本では空前の韓流ブームが起こり、韓国を訪ねる日本人はぐんと増えた。それまで知らなかった韓国は日本の人々にとって身近な存在となり、韓国の人たちも日本人の新しい姿に触れた。1998年には、日本と韓国を往来する人は合わせて200万人にも満たなかったが、為替の影響など理由はさまざまだが、今では合わせて700万人もの人が往来するまでに膨らんだ(2016年、訪日韓国人は509万人、訪韓日本人は230万人)。

 「反日」、「嫌韓」という言葉が蔓延しようとも、一方で、彼の国を直接自らの足で歩き、言葉を交わし、文化に触れている人たちがどんどん増えている。これだけヒトやモノ、カネが行き来する日本と韓国は、実は世界でも数少ない成熟した関係ではないだろうか。民間レベルでこれほどまでに日本と韓国の距離が縮まったのは、やはり、「日韓共同宣言」があったからにほかならない。

 日本と韓国には歴史や領土問題など容易くは解決できない問題が深く根を下ろしている。摩擦が起こるのも当然だが、そのたびに反日や嫌韓がさまざまな形で蒸し返され穏やかだったり冷え込んだりのでこぼことした関係を繰り返してきた。

 この原稿を書いているのが、韓国の「慰安婦合意」検証結果の発表前なので、どんな事態になっているのかは分からないが、日本と韓国の関係は、どの政権下にあってもこうした問題を両国がどう真摯に管理していけるかにかかっている。

 文政権は歴史問題と外交を分けたツートラック外交をどれだけ徹底して進められるのか。そして、今の高い支持率がもし下がっても、これまでの政権のような日本に厳しいカードを切らずにいられるのか。これは今の北朝鮮情勢では簡単には切れないカードだろうが。

 日本も然り。「そんな都合のいい話があるか」と批判も上がる韓国のツートラック外交をどう受け止めていくのかが課題となる。

 国際社会での国と国との関係が目まぐるしく変貌する中、日本と韓国の相互の信頼関係は今まで以上に求められている。対峙するようなことがあっても対話の窓口を閉ざしてはいけない。対話を重ね、時間をかけながら、信頼関係を築くには長い時間がかかる。

 日韓の関係を変えた宣言から20年という節目の今年、願わくば、日韓の歴史に新たな未来志向的な線が引ける「日韓共同宣言」のような出来事があってほしいと思う。

 訪問を牽制したと伝えられるが、安倍首相が平昌オリンピックを訪れ、文大統領が2020年の東京オリンピックを訪問すると宣言することはそれほど夢のような話なのだろうか。

 
 プロフィール

 1963年生まれ。出版社勤務、週刊文春の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』『ソニーはなぜサムスンに抜かれたのか』(共に文藝春秋)『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)などがある。


(2018.01.01 民団新聞)
 
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