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文在寅大統領の韓国 対日政策の行方…平井久志氏(ジャーナリスト)

「左派反日」のレッテルは間違い

「対北」の協力は必然
接点求める努力互いに


  2018年は、昨年5月にスタートした文在寅政権が初めて迎える新年である。閣僚人事をはじめとする陣容を整備し、文在寅政権の真価が問われる年ともいえる。

 北朝鮮の核ミサイル問題をはじめ内外の情勢は厳しく、米朝関係が衝突に向かうのか対話に向かうのかなど「変数」が多い年であり、2018年の行方を見通すことは極めて困難だ。安倍政権は1月に東京で日中韓首脳会談の開催を考えているが、中国が消極的姿勢を示しており、文在寅大統領の訪日がいつになるかまだ不透明だ。

 2015年末に発表された慰安婦問題をめぐる日韓政府間合意を検証するための韓国外相直属の作業部会が2017年12月末にも報告書を発表する予定だ。本稿執筆時点ではその内容は明らかになっていないが、報告書の内容と韓国政府の対応次第では文在寅大統領の訪日にも影響を及ぼす可能性がある。

 慰安婦問題など歴史問題が日韓関係の障害物として厳然と存在していることは事実であるが、それが日韓関係の「すべて」ではない。慰安婦問題では韓国側が原則的な立場を少し緩和し、日本側が被害者の人たちに寄り添う姿勢を強めるなど、双方の努力が必要と考える。歴史問題を「横に置く」のでなく、双方の接点を求める努力を傾けながら、全体としては日韓の交流・協力は強化しなくてはならない。

 文在寅大統領の日本での評判はよくない。日本メディアでの「左派・反日」というレッテル張りが先行し、日本国民にそんなイメージを与えてしまった。日本側は日韓関係を壊したくないという文大統領の意志をもう少し評価してよいと思う。

 文在寅政権の対日姿勢は、慰安婦問題などにおける国内の国民感情を尊重しながらも、北朝鮮問題などを考慮、日韓首脳の相互訪問の復活をはじめ経済や社会文化面での交流など日韓関係全体は強化、発展すべきとの姿勢だ。

 文在寅政権内部から最近、天皇訪韓への肯定的な発言があることは注目したい。天皇の韓半島への深い思いを考えるならば、その実現は日韓双方に大きなメリットがあると考える。安倍政権下では困難かもしれないが、天皇自身が願っている訪韓が何とか実現するように日韓双方の国民の努力が必要だ。

 南北問題では、文在寅政権に近い人たちは、韓半島問題では韓国が運転席に座らなくてはならないと韓国の「主導的役割」を主張する。当事者が「主導的役割」を果たすのは当然だが、現在はそういう状況ではないように思われる。何よりも、もう一つの当事者である北朝鮮の目には米国しかなく、韓国は視野にない。文在寅政権が「主導的役割」を果たすためには環境整備が必要だ。北朝鮮の対話路線への転換、米国の理解、中国の協力などがなければ「主導的役割」は果たせない。

 韓国政府は、故障した、ガソリンもない自動車の運転席に座りたいと主張するより前に、この車の故障を直し、ガソリンを注入する必要があるように思われる。

 そうした環境整備の有力な場として平昌五輪があるように思う。五輪の旗は平昌から2年後に東京へ向かい、その2年後に北京に向かう。五輪を平和の祭典にする努力は、韓国だけのものではなく東アジア全体のものだ。北朝鮮の核ミサイル問題解決の前進がなければ、2020年の東京五輪で、東京上空を北朝鮮のミサイルが飛び、Jアラートがなるという「悪夢」につながりかねない。平昌五輪への北朝鮮の参加に向けた文在寅政権の最後の最後までの努力を期待したい。

戦争を阻止する日韓の連携を
 文在寅大統領は昨年の光復節の演説で「韓国政府はすべてを懸けて戦争だけは防ぐ」と述べた。さらに米国を念頭に「誰も韓国の同意なく軍事行動を決定することはできない」と強調した。文大統領はその後も、「韓半島で再び戦争を起こしてはならない」と繰り返し主張している。

 一方、安倍晋三首相は「日本は『すべての選択肢がテーブルの上にある』とのトランプ大統領の立場を一貫して支持している。日米が100%共にあると力強く確認した」と言い切っている。米国が北朝鮮に軍事行動を取っても「100%ともにある」と取れる発言だ。

 朝鮮半島で戦争が起きれば、北朝鮮が韓国や日本に報復攻撃を掛ける可能性が高い。日本にとって第2次朝鮮戦争はもはや「対岸の火事」ではない。自らが甚大な被害を受ける可能性の高い「あってはならない戦争」だ。

 その意味で、文大統領の「韓国政府はすべてを懸けて戦争だけは防ぐ」との発言は、戦争を求めない日本の市民にとっても励ましの言葉だ。

 日本は少子高齢化が進み、今後、ますます国力は低下するだろう。韓国も今は日本より元気があるように見えるが、やがて同じ道をたどる可能性が高い。日韓両国ともアジアの「中堅国家」として生きていくしかない。また両国は安保軍事面では米国に依拠し経済的には中国との関係を深めている。国力が低下していく国が自国だけで米国に、中国に、もの申しても弱い。日韓はこの地域で生きていくためには、歴史問題など様々な問題を抱えながらも、うまく管理し、両国が声を合わせて米国にも中国にも主張していく方が効果的だ。

 今年は、小渕首相と金大中大統領が「日韓パートナー宣言」を発表して20年目の年だ。私たちが葛藤を乗り越え、新たなパートナーとして再出発する年にしたい。

 プロフィール
 1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。著書に『ソウル打令‐反日と嫌韓の谷間で‐』『なぜ北朝鮮は孤立するのか』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継』(岩波現代文庫)など。
(2018.01.01 民団新聞)
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