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サラム賛歌<22>日韓の狭間に光あて
時代見据える建築家
冨井正憲さん


 流ちょうな韓国語を操り、路地裏をくまなく歩き回る。現地の人と親しみ、その食を好み、暮らしの中の美を愛でる。現代を生きる浅川巧のような人だと、私は思う。

 「韓国建築を最もよく理解する、数少ない日本人の一人」と評される冨井正憲さん(68)。興味の対象は建築にとどまらず、歴史や文化、暮らしの全般にわたる。

 初めて韓国を訪れたのは1982年。ソウルの街中で、ふと東京の下町に迷い込んだような不思議な気持ちがしたと言う。数多く残る日本家屋が、かつてこの地に日本人の暮らしがあったことを思い起こさせた。植民地時代への研究は、そのときから始まった。

 神奈川大学建築学部教授だった2004年から、ソウルの漢陽大学で建築の授業を始めた。2009年には専任教授となり、本格的な韓国暮らしが始まる。建築学だけでなく歴史や民俗学など、様々な分野の人との交流も盛んに行った。

 現在は漢陽大学の客員教授として週のうち2日は大学で講義をする。2日は韓国人夫婦のために設計した住宅の建設現場に通う。残りの時間は、都市の歴史などの研究に没頭している。

 わが家である「仁川官洞ギャラリー」も、冨井さんの作品だ。90年前に建てられた日本式木造住宅が、未来へと続く魅力的な空間に生まれ変わった。

 植民地時代に関する研究の成果は、2011年の「異邦人の瞬間捕捉‐京城1930」展(ソウル・清渓川文化館)で発表された。手書きの地図を元に、かつての京城(現在のソウル)にあった日本人町と朝鮮人町の様子を再現したものだ。

 東京の韓国文化院でも、「モダン都市京城の巡礼‐鍾路・本町」として、この展示が行われた。ソウルでも東京でも大きな反響を呼び、過ぎた時代を直視しようという流れにつながった。

 冨井さんは、朝鮮に深い関心を寄せた日本人のことを、格別な思い入れを持って調べている。その中の一人、今和次郎(1888〜1973)に関する本が、昨年末、韓国で出版された。『今和次郎フィールドノート』(ソウル歴史博物館刊・韓日両国語)だ。

 今は、朝鮮総督府の依頼で朝鮮の民家を調査した人。家の造りだけでなく、衣食住のすべてにわたって細かに調べあげ、いわゆる「生活学」を始めた人でもあった。

 冨井さんを初めとする日韓の研究者たちは、工学院大学に保管されていた非公開資料の中から、1922年の今のスケッチや記録を掘り起こして、公開に導いた。長年のこだわりを発表する場を得て、冨井さんはすがすがしい笑顔だ。

 過ぎた時代への研究をさらに深めるためには、埋もれている資料の掘り起こしが必要だ。一般公開されていない資料が、まだあちこちで眠っている。世の間違った「定説」を覆すためにも、それらを探し出して公開するという、地道な作業が不可欠なのだ。

 日韓の人々が情報を共有し、共に向き合い、共に考えること。それこそが、こじれた歴史を解きほぐす糸口になる。日韓の狭間で冨井さんは、まっすぐに時代を見据える目の大切さを説き続けている。

戸田郁子(作家)

(2017.1.1 民団新聞)
 
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