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サラム賛歌<26>草木染にも民族の感性
染色にかけた人生
李炳瓚さん


 穏やかな笑顔の中に、凛とした空気が漂う。丁寧な美しい日本語を話す李炳さん(85)は、これまで40年余り、染色家としての道を歩み続けてきた。

 李さんは中国の天津にかつてあった、外人租界で生まれた。建築家の父が建てた、レンガ造りのモダンな洋館で暮らし、近所の日本人小学校に通った。

 日本の敗戦による引き揚げの混乱期。韓国人の李さん家族は、全員無事に韓国に帰国した。

 李さんは達者な日本語の実力で、若い時分からソウルにある日本の商社などで、20年余り勤めた。やがて陶芸や染色など、韓国の伝統工芸に傾倒した。

 韓国に合成染料が入ってきたのは19世紀末。それとともに、天然素材の草木染は急速に衰退した。どうしたら天然の材料を使って、朝鮮時代の色を再現できるだろうか。李さんは古い文献を読み、そこに出て来る植物を探し求めた。

 たとえば日中韓では、昔から藍染めが盛んだった。その原料である藍草も、それぞれに異なる。韓国で自生していたものは葉が丸っこいが、いつの間にか日本から入ってきた細い藍草が主流を占めるようになった。これでは、本当の伝統色を表現できない。

 外来種に押されて疎外された伝統種を見つけ出し、栽培し、染色する。求めていた一つの色を出すまでに、何年もかかったこともある。

 「同じ紅花を使って染めても、日本と中国と韓国とでは、色の感じが違います。好みの違い、気候の違い、民族の感性の違いもあるから」

 韓国の色の特徴はと問うと、「鮮やかさ」という答えが返ってきた。五方色と呼ばれる赤青黄白黒は元来、中国から伝わったものだが、韓国に定着して様々な工芸に用いられた。対照的な色と色の組み合わせが、韓国では美しいとされる。

 その感覚を知らない日本人が、セクトンのような色合いを「浅はかだ」と評したりする。私自身も、韓国での結婚式で着た鮮やかなピンクのチマと黄色のチョゴリの組み合わせを、嫌だと思ったことがあった。

 その国の伝統を理解し、生活文化を見つめ直して見てこそ、美しさというものがわかる。文化を知らずに自分の尺度で物事を測っていては、友好などありえない。

 韓国内でも、文化の断絶はあった。貧しく、食べることだけで必死だった時代が続いたせいで、「お金こそがすべて」という風潮が蔓延し、伝統の良さや、個人のささやかな楽しみは顧みられなかった。

 時代は変わり、伝統が見直されるようになったが、断絶した狭間を埋める作業は、大変なことだ。

 李さんの雅号は「紅碧軒」。まさに、鮮やかな青と赤が生み出す調和の美を、人生をかけて表現してきた人らしい。

 「私は天の志に従って、進んできただけ。生きるということそのものが、とても重要だと思っています」

 これまで作った染色作品の大半は、すでに韓国国立民俗博物館に寄贈した。しかし今も、李さんの探求は続いている。

 繊細な色を見極める確かな目と、迷わずに進む強さを持つ。黙々と進んだ先達がいたからこそ、失われずにすんだものがあることを、知った。

戸田郁子(作家)

(2017.2.22 民団新聞)
 
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