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サラム賛歌<28>仁川に生き、世代を繋ぐ
餅屋のアジョシ
李鐘福さん


 詩人であり、エッセイスト。新聞にコラムも連載し『仁川近代紀行』『仁川閑談』など、13冊の著作を出した李鐘福さん(55)は、仁川の新浦市場で「餅屋のアジョシ」と呼ばれている有名人だ。

 父親が経営していた店の跡を継いで、今年で30年になる。朝4時から餅作りを始め、日中は販売や配達を行い、午後5時以降がようやく、執筆の時間だ。

 大学では法学を学んだ。しかし、「軍事独裁政権下で、法の力ではこの社会をどうすることもできないと痛感して、文学に関心を持ち、詩やエッセイを書き始めた」。

 李さんは今、『仁川チャンポン』というエッセイを執筆中だ。東北アジアや東南アジアの麺を中心に、食べ物の同質性を探すことをテーマにしている。

 韓国でチャンポンと言えば、中華料理の辛い麺を指すが、ごちゃごちゃに混ざるという意味もある。野菜や海産物の具に、肉の出汁を使うことで、おいしさが倍増するチャンポン。

 それと同じように、互いの文化が混ざり合うことで、世の中はより楽しくなるはず。そこに明るい未来を見出したいと、李さんは考えている。

 仁川はチャンポンのような町だと、李さんは語る。鎖国していた朝鮮が1883年に港を開き、海外の文化が一気に流入した。そんな歴史の痕跡が、今も仁川の町に数多く残っている。西洋や東洋、いろんな国の文化が混ざってできた町が、仁川なのだ。

 仁川生まれ、仁川育ちの李さんは、歴史の検証を行う郷土史家としても知られる。

 李さんが仁川にこだわるのには、理由がある。300万都市の仁川では、80万人が全羅道の出身だ。その次に多いのが忠清道。慶尚道や江原道の出身者も数多い。親の代から仁川で生まれ育ったという人は、10%にも満たない。

 生活のために仁川にやって来て、お金を儲けたら別の場所に去って行く。仁川に定着する人はわずか。だから、この町に愛着を持つ人が少ない。李さんはそれがもどかしいのだ。

 仁川は過去と現在、そして多様な文化が融合している魅力がある。仁川に住む人々に、仁川をもっと愛してもらいたい。そのために、自分には何ができるだろうか。

 特に、この町を引き継いでゆく若い人に、希望を持ってもらいたい。青少年を対象に、町の歴史や未来を語る講座を行ったり、文化コンテンツを編み出したり、読書室を作ったりと、李さんはいつも行動している。

 寒い日も半袖姿で、明るい笑顔を絶やさず、長年の力仕事にもへこたれない。「この元気な体も、父から受け継いだもの」と言う。

 李さんは父のことを「記憶保有者」であり「記憶伝達者」だったと言う。その父と同じように、李さんもまた、家業を引き継ぎ、誠実に暮らしを守りながら、仁川の歴史を引き継ぎ、未来へつなげていこうとしている。

 今朝も餅屋からはもくもくと湯気が上がって、李さんの一日がスタートしただろう。変わらぬ日々の営みこそが、李さんの主張であり、生き様なのだ。

 李さんの笑顔は、町を照らす灯。その笑顔に触れて、今日も皆がまた、元気になる。

戸田郁子(作家)

(2017.3.22 民団新聞)
 
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