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サラム賛歌<29>両親への一番の恩返し
東洋刺繍作家
金春姫さん


 蔚山に住む金春姫さん(39)は去年、地元で個展を開いて、東洋刺繍作家としての道を歩み始めたところだ。幼い子どもの世話をしながら、寝る間も惜しんで針を持つ。刺繍に没頭していられることが、一番の幸せだと言う。

 金さんの故郷は北朝鮮だ。12歳で、地元の芸術学校に進んだ。父から、音楽をやったら食べていけないから、絵を学べと助言された。その教えに従って絵画を専攻したが、基礎ができておらず、入学早々、苦労した。

 1年生の夏休み。母が学友や近所の人を次々と家に招待して、娘に人物デッサンを描かせた。おかげで絵画の実力がぐんと伸びた。両親の導きがあったからこそ、今の自分がある。金さんはいつもそう考えている。

 絵画を6年、その後は刺繍を4年間学んだ。芸術学校を卒業した後は、国家の美術創作社で「1号美術画家」として働いた。学校で学んだ刺繍は、生活の糧を稼ぐのに大いに役立った。服の修繕を請け負い、かわいい刺繍をつければ、良いお金にもなり、人々に喜ばれた。

 脱北して韓国に定着したのは6年前。縁あって韓国の男性と結婚し、今の暮らしがある。

 韓国では「脱北者」と呼ばれる人々が3万人を超える。事情は異なれど、残してきた肉親を思い、眠れぬ夜を過ごすことに変わりはない。周囲の視線を恐れ、口をつぐんで生きる人も多い。

 しかし金さんが韓国で作家として生きるためには、出自を隠すことはできない。この技法をどこでだれに習ったかと尋ねられるたび、堂々と答えようと、金さんは心を決めた。

 伝統芸術の伝承は、北と南で違いが大きい。金さんの作品は、韓国の伝統刺繍とは明らかに異なる。北の刺繍は、東洋と西洋の技法を取り入れた絵画的な要素が強いのだ。

 韓国の伝統刺繍は、紋様を生み出す工芸作品だ。服の一部や小物に刺繍を施す。北の刺繍は、韓国とは図案も色使いも異なっている。下絵のデッサンを綿密に行い、絵の具の代わりに針と糸で微妙な濃淡を生み出しながら、一幅の絵画を描くように作品を作る。

 初めに薄色の糸を用い、その上に少しずつ濃い色糸を重ねてゆく。その技法を、これから様々な場所に応用していきたいと、金さんは考えている。作ってみたいテーマが次々と頭に浮かんできて、興奮して眠れなくなることもある。

 韓国の伝統刺繍や西洋のステッチばかり見慣れた人にとっては、金さんの刺繍は全く新しい技法だ。蔚山での小さな個展だったが、刺繍家たちの間で、金春姫の名は注目を集めた。

 来年にはソウルで、本格的な東洋刺繍の展示会を開きたい。この技法を多くの人に知ってもらうために、本も出版したい。金さんの夢はどんどんふくらんでいく。

 「自分には刺繍があるから、どんなにつらいことがあっても耐えていける。私が活躍して、世に名前が知られることこそ、両親への一番の恩返しになるはずと考えています」

 金さんは日夜、作品作りに没頭している。3年後、5年後には、どんな作家さんになっているだろうか。今からとても楽しみだ。

戸田郁子(作家)

(2017.3.29 民団新聞)
 
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