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サラム賛歌<30・最終回>祖母・母・娘 3代で担う
母の池成子(左)とともに仁川宮洞ギャラリーで演奏会
伽倻琴奏者
金保京さん


 昨秋、ソウルで独奏会を開いた金保京さん(47)の公演プログラムに、こんな一文があった。

 「日本で生まれた私は、日本文化の中で育ちました。当時の日本では、韓国の文化に触れることが難しかったのですが、わが家にはいつも、伽倻琴の音がありました」

 東京で生まれ、日本の学校に通い、高校を卒業した1989年に、母国留学生として韓国を訪れた。

 1年間の語学研修後、韓国の文化をもっと知りたくて、弘益大学の陶芸科に進学した。韓国語はまだ得意ではなかったが、実技を学ぶ楽しさがあった。

 教授は、金さんの外祖母である故成錦鳶のファンだった。母の池成子も、韓国では有名な伽倻琴の名人だということを、そのとき初めて認識した。

 大学を卒業した金さんは、いったん日本に戻った。自分はどこに住むべきか。これからどう生きるのか。日本で仕事をしながら、1年間悩んだ。

 幼いころからあたりまえのように親しんできた伽倻琴の音色が、頭の中で響いた。運命の糸に手繰り寄せられるように、母がパンソリを習うために住んでいた全州に向かった。ソウルとは違う田舎の町で、伽倻琴以外の伝統楽器も、みっちりとたたき込まれた。

 祖母から母へ、そして娘へ。傍から見ればそれは、当然と見えるかもしれない。しかし金さんが本格的に伽倻琴を学ぼうと決めるまでには、長い道のりがあった。当代最高の名人と言われる祖母と母の血筋も、大きなプレッシャーだ。しかも韓国では、伝統音楽の分野で2代、3代と引き継がれるケースはまれだ。

 98年にソウルの韓国芸術総合学校の国楽科に入学し、演奏家としての活動を始めた。唱劇団の伴奏を務め、KBS放送局の国楽番組の専属伴奏者となった。「演奏に言葉はいらないから、私が在日だとわかる人はいなかった」と、金さんは笑う。

 昨年、ソウルの漢陽大学で博士課程を終えた。現在は韓国芸術総合学校と釜山芸術大学で教えながら、演奏家として活動している。

 金さんは、二人の娘の母でもある。上の子は中学生、下の子は小学生。最近は、子どもの進路について悩むことも多い。

 「私は通名で、日本の学校に通った。少しでもニンニクの臭いがすれば、いじめられた。でも娘たちは韓国で育ったから、そんなことは気にせずに、まっすぐ育ってくれた」。

 娘たちが4代目を継ぐかどうかは、本人の意志に任せたいと考えている。金さんの幼いころと同じように、娘たちも、日々の暮らしが伽倻琴の音色とともにある。

 母国に住みながら、「在日をやめて韓国人になれ」と言われ、泣いたこともある。心が折れそうなとき、いつも伽倻琴が傍らにあった。

 「今になって、日本に30年住んだオモニが、命がけで守ってきたことの意味がわかるような気がする」。

 母国留学前、金さんは民団新聞のインタビューを受けたそうだ。そのときは、どんな未来を夢見ていたのだろう。

 金さんは今、韓国の国楽界で、ひときわ存在感を発揮している。祖母と母の歩んだ道。そして金さんが選んだ人生の道だ。

戸田郁子(作家)

(2017.4.12 民団新聞)
 
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