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訪ねてみたい韓国の駅<11>京釜線 南省峴
清道ワイントンネルの入口、今や一大観光スポットだ
広々とした駅だが下車したのは筆者1人だった
歴史を背負うトンネル

 「おーい、早くホームから出てくださーい」

 今降りたばかりの「ムグンファ号」を見送っていると、駅舎から駅員が出てきて手招きした。ここは慶尚北道、釜山から北へ1時間ほどの京釜線にある南省峴(ナムソンヒョン)駅だ。

 構内踏切を渡ると、駅員は柵に鍵をかけた。自由にホームへ出入りできず、駅員が案内した時だけ改札が開く、列車別改札。日本でもかつてはよく見られた方式だ。待合室の時刻表を見ると、停車する列車は1日上下各4本。筆者のほかに乗客はいない。韓国の大動脈・京釜線にも、こんな懐かしい駅が残っていた。

ワイン熟成に最適

 駅前には、数軒の民家のほかは、柿の形をした観光案内板があるだけ。甘い柿がこの地域の特産だ。

 駅前から左の山の方へ1キロほど歩いて行くと、先ほどまでのひなびた雰囲気が嘘のように観光客が増え、賑やかになってきた。やがて現れたのは、柿のオブジェで飾られたクラシックなトンネルだ。 ここは、清道ワイントンネル。清道地方の特産品である柿を使ったワインを製造している、清道柿ワイン社が運営するワイン倉庫だ。1904年に竣工し、1937年まで使われていた旧京釜鉄道の省?トンネルを再利用した施設である。

 トンネル内は、1年を通じて摂氏15度、湿度60〜70%を保っており、ワインの熟成・保存に最適の環境だ。入口から200メートルほどが観光客向けに無料で開放されており、ワインの販売カウンターや、有料の試飲コーナーもある。観光向けに様々な飾りが施されているが、トンネルそのものは鉄道時代の姿をよく残している。

 多くの行楽客で賑わうワイントンネル。だが、一方で複雑な歴史を背負う存在でもある。トンネルが完成した1904年は、日露戦争が勃発した年。韓半島を巡ってロシアと対立した日本政府は京釜鉄道の建設を急いでいたが、全長1015メートルの省?トンネルは、建設に8年を要した最大の難所だった。このトンネルの完成によってソウルと釜山は鉄路で結ばれ、日露戦争最中の1905年1月1日、全線開業したのである。

波乱に満ちた113年

 しかし、勾配が非常に急な省峴トンネルは、鉄道トンネルとしての寿命は短かった。1937年、勾配を緩和して輸送力を増強するため、現在も使用されている南省峴トンネルが完成。旧省峴トンネルは開業から30年あまりで廃止された。その後は道路に転用され、1960年代までは国道として活用されたという。このトンネルが、20世紀初頭の建築・産業技術を現代に伝える文化財として認められ、観光スポット「清道ワイントンネル」としてオープンしたのは、2006年3月のことである。

 客席に腰掛け、1杯4000ウォンのプレミアム柿ワインを試飲してみた。一瞬、強い酸味が口の中に広がり、続いて爽やかな柿の香りが鼻をくすぐる。とても飲みやすい独特のワインで、大統領の就任式や国際会議のパーティーでも使われるという。

 日本による韓国の植民地支配を支えた鉄道トンネルが、今は韓国を代表するオリジナルワインを育てている。歴史の皮肉ではある。しかし、ワインを味わい、楽しそうにトンネルの写真を撮っていたりする人々を見ると、なんとも幸せなトンネルのようにも思われた。

栗原景(フォトライター)

(2017.8.30 民団新聞)
 
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