
戦時中に強制連行された主人公が、戦後は出自を隠して成功するも、とある出来事をきっかけに追い詰められていく姿を描いた同漫画は、忘却された歴史や差別の実態を克明に描き出している。
1970年初出で全集未収録だった同作品を、原稿からの再スキャンにより待望の復刻。作品の時代背景を精緻にひも解く80㌻の解説を付したことで、同漫画の重要性がより理解できる。
映画・比較文学研究の四方田犬彦は、「手塚治虫が生涯をかけて描こうとした主題は、ヒューマニズムではなく、差別であった」と解説。日韓関係研究・翻訳家の神谷丹路は「手塚は、表舞台から追いやられ、見えない存在に押し込まれていた在日コリアンの不条理を描いた。半世紀前の手塚作品が問うている私たち日本のありようを、これからも心して考えていきたい」と述べる。
(法政大学出版局、手塚治虫著、解説=四方田犬彦・本浜秀彦・李鳳宇・神谷丹路・林晟一・李英美、A5判、134㌻、税込2200円)