掲載日 : [2019-04-05] 照会数 : 7561
【寄稿】「連邦制統一」の本質
<北は「連邦制」統一構想を捨てたのか>
金正恩氏は今年2019年の新年辞で、「北と南は、全民族の合意に基づいた平和的な統一方案を積極的に模索し、その実現のために真摯な努力を傾けるべきである」と述べた。
一見するとこれまで一貫して主張してきた「連邦制」の提案から後退した印象を与える。
だが、その発言の意図は新たな統一方案の模索にあるのではなく、昨年3回の南北首脳会談を経て、韓国の文在寅政府の宥和政策に対応するためのゼスチャーに過ぎないと評価されている。
実際に、1960年、1972年、1980年と、北は「連邦制統一」を一貫して主張してきた。いかなる場合にも北の独裁体制を維持し、拡張しようとする権力意思の表れが「連邦制統一」構想であると考えられている。
<高麗連邦制の本当の狙い>
1980年に提案された北の「高麗民主連邦共和国」案は「1民族1国家2制度2政府」を主張し、南北の体制の違いをそのままにしたまま、「連邦共和国」として「単一の国家」になることを骨子とする。
このプランには「統一憲法」も「統一総選挙」も含まれておらず、「連邦制」を最終段階としている。ということは、その実態は「分断」の「固定化」による「権力の維持」が目的であるということになる。名分は「統一」だが、実態は「統一」の否定であり、「分断の固定化」にあるということになるだろう。
民族統一とは、南北を社会的に等質化し一体化する作業であり、南北同胞の統一国家に対する願いを「南北統一総選挙」を通じて確定する作業であるはずだ。
だが、統一後の国家像を決定する「統一憲法」も「統一総選挙」もなく、2つの「異なる制度」、「異なる政府」をただ単に「連邦国家」として結合するということは、結局、その真の目的が「民族統一」にあるのではなく、既存の「体制」を維持することにあるということになる。
<「連邦制」統一は内戦の引き金>
「連邦制」による統一には、より重大な問題がある。
「連邦制」では、統一に先立って南北それぞれの政府は外国との「同盟関係」を清算することになっている。韓国は米国との、北朝鮮は中国との同盟関係を清算して、名目上「一つの国」になるのだとする。北の軍隊119万人と南の軍隊63万人を残したままである。
現在まで、韓国は米国との、北朝鮮は中国との同盟関係を通じて半島の平和は維持されてきた。好むと好まざるに関わらず、極東における国際安全保障体制の冷厳な事実である。
だが、名目的にであれ「一つの国」になってしまえば、半島内の軍事衝突は「内政」問題となり、外国による紛争の介入は「内政干渉」になってしまう。
「連邦制」統一の最大の危険はここにある。形式的な「中央合同司令部」を置こうとも、何万人かの「軍縮」を南北相互で行おうとも、必ず「内戦」は起こる。単純に「信頼関係」では事は済まない。
「連邦制」統一は内乱への「ワナ」であり、「第二の朝鮮戦争」の引き金になる。
<70年にわたる対南軍事テロの履歴>
1950年の「6.25」動乱、1968年の「1.21ゲリラ南派事件」、1983年の「ビルマ・ラングーン爆破事件」、1987年の「大韓航空機爆破事件」、2006年の第一回「核実験」、2010年の「天安艦爆沈事件」「延坪島砲撃事件」と、平壤政権による絶え間ない対南軍事テロの履歴を考えるとき、南北それぞれの米・中との同盟関係による抑止力なしに韓半島の平和を維持することは不可能だ。
平壤政権はことあるごとに「民族自主」を言うが、実際には、北による「6.25」南侵の失敗は中国人民軍の大規模介入によって収拾されたし、その後の南侵テロ活動も中国の後ろ盾がなければありえなかっただろう。
南北それぞれが国際的な安全保障体制を破棄することになれば、必ず内乱は起こる。そして、現実的な脅威は北からの脅威であろう。北の国家的体質と過去の歴史がそれを裏付けている。
「連邦制」統一はわが民族を滅亡に導くものである。
<北の非核化が民族統一の前提>
今日において、北の核・ミサイルと生物化学兵器の完全なる廃棄なしには、民族の再統一事業は一歩も前進しない。平壤政権が核・ミサイルと生物化学兵器を捨てるなら、それはわが民族の「自主的」「平和的」「民主的」統一の決定的な里程標となるだろう。
「核」をとるか「民族」をとるか、平壤政権は今その歴史的選択を迫られている。北が核を捨てるなら、われわれはすべての過去を水に流して新しい地平に立つだろう。
だが、北において国家機構の上に立つ朝鮮労働党規約では、「先軍体制」によって「(南北の)全社会をチュチェ化」すると明記している。その規定がこれまで南侵テロ活動の思想的な温床となってきたのだが、いまもなおそれは修正されていない。
北の憲法や労働党規約の致命的な硬直性は、北社会の政治的・経済的発展をはばみ、韓半島に絶えず軍事的危機を作り出してきた。核・ミサイルと生物化学兵器の開発もその延長線上にある。
平壤政権が南北融和や民族統一を望むなら、まず朝鮮労働党規約を改正し、攻撃的・侵略的な部分を削除すべきだ。そして、核兵器と生物化学兵器をみずから毅然と廃棄すべきだ。韓国国民は、その努力に誠実に応える用意がある。
<連邦制統一の反自主的本質>
「連邦制」統一構想は、異質な既成権力構造を機械的に結合することを最終目標として設定し、統一後の国家像に対する「南北統一総選挙」を通じた民族成員一人一人の選択権を無視する点で「反民主的」である。
「連邦制」統一構想は、したがって「反自主的」なものである。なぜなら、「民族自主」とは、民族成員全体の願いに基づき、その福祉のために進むべき方向を貫くことであって、特定政権の政治的戦略を貫徹することではないからだ。
民主のないところには自主もない。
金正恩氏は過去1年間に4回も中国を訪問し、習近平主席に支援を求めた。だが、一般の北同胞には外国への往来の自由すらない。これもまた、「チュチェ思想」「先軍政治」の弊害であり、北の言う「民族自主」がまやかしであることを示している。中国の後ろ盾がなければ平壤政権は何もできないのが実情だ。
「連邦制」統一構想はまた、国家の形式的統一の後に内乱の要因を残すことによって「平和」に逆行する計画であり、民族そのものの破滅につながる道である。
このような「連邦制」統一案に韓国国民がどうして応ずることができようか。
金一男(韓国現代史研究家)