掲載日 : [2018-08-29] 照会数 : 5746
小池都知事は追悼辞復活を…関東大震災朝鮮人犠牲者慰霊祭
人権尊重の〝証し〟に…動かせぬ虐殺の事実
1923年9月1日、関東地方をマグニチュード7・9の大地震が襲った。昼時で火を使っていたことと当時は密集した木造住宅が多かったことから、都内の約6割の家屋が倒壊もしくは火事に遭ったと言われている。
190万人が被災、10万5千人余りが死亡または行方不明になったと推定されているが、それとは別に「井戸に毒を投げ入れた」「暴動を起こしている」といったデマに扇動された日本の軍隊、警察、一般市民らにより数千人の朝鮮人や中国人が無残にも虐殺された。
遺憾ながらこの事実は95年後の今、伝え聞く機会が少なくなり、あろうことか日本の歴史教科書の記述さえ、ある意図をもって消されつつある。
いわゆる歴史修正主義のなせる業である。その一方で、虐殺が歴史的事実であることを地道な努力を続けながら、後世に語り継ごうとする心ある日本人も少なくない。
震災のあった毎年9月には民団だけではなく、各地の市民団体が東京・神奈川・千葉・埼玉・群馬などで関東大震災における虐殺犠牲者の追悼式や慰霊祭を営んでいる。
墨田区の東京都立横網町公園では、73年に民間団体が建立した朝鮮人犠牲者追悼碑があり、ここでも毎年9月1日に追悼式が挙行されている。それは都内では数少ない貴重な追悼碑であり、過去には歴代の都知事が追悼辞を寄せてもいた。
ところが昨年、小池百合子知事はそれを送ることをやめてしまったのである。自身も就任直後の一昨年には送っていたにもかかわらずである。その背景には、ある都議が議会で「公園の碑文にある6千余名は根拠希薄だ。知事は追悼辞を再考すべきだ」との発言があったからと憶測されていたが、これを知事本人が認めたとの噂もある。これに対し、主催者や民団東京本部などが再考を促す要望書を提出したものの、知事が翻意するには至らなかった。そうした中で、小池知事の今年の動向が注目されていたが、早々と8月初めには今年も追悼辞を送らない断言してしまった。
確かに、関東大震災における朝鮮人虐殺犠牲者数については諸説あるものの、虐殺の事実そのものは日本政府も認めている。そもそも犠牲者数の如何をもって、朝鮮人虐殺の中心地に位置する自治の首が追悼辞を断る理由とするのは尋常な思考とは思えない。
何故なら、追悼辞というものは人数の如何にかかわらず、犠牲者を悼み再発を防ごうとする気持ちを表す人の心の内面の問題だからである。換言すれば、虐殺は不幸な歴史の一頁だが、それでも正しく語り継ごうとする人々が大勢いることをすべての為政者は忘れてはならない。ましてや虐殺の事実を覆い隠そうとする昨今の潮流に対しては犠牲者の側に寄り添い、断固たる姿勢を堅持するべきなのである。
近年、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムが日本各地を席巻し、排外主義が臆することなく正面切って主張されている危うい風潮がある。東京都は「オリンピック憲章にうたわれる人権尊重のための条例案」を今年6月に発表したが、それは2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据えた人権先進国の首都としての責務からではなかったか。その首都を司る小池知事が、関東大震災時のデマに扇動された人たちによって虐殺された朝鮮人や中国人がいたことに、真摯な人権意識をもって思いをはせてほしいと、心から願うところである。
民団中央本部生活局長・孫成吉
(2018.08.29 民団新聞)