
同胞と地域の安全守る
石川県金沢市に「尹奉吉義士殉国記念碑」が建立されている。
尹奉吉義士は1932年4月29日、上海・虹口公園で行われていた日本の行事で爆弾を投げ込み日本軍高官らを死傷させた。そしてその場で逮捕、日本へ連行され同年12月19日、金沢市郊外で銃殺刑に処された。
解放後、46年3月、在日韓国人有志らがこの暗葬地を掘り返し、発見した遺骨を祖国に奉還したが、暗葬地自体は「在日が守らねばならぬ烈士の痕跡」として記憶に残り、在日同胞社会の心の拠り所となってきた。韓国では独立運動の義士として顕彰されてきた。
尹奉吉義士殉国60周年にあたる1992年には民団や記念事業推進委員会が中心となり、暗葬地近傍に「尹奉吉義士殉国記念碑」を建立した。また暗葬地は月進会(尹奉吉義士暗葬地保存の会)などが管理している。
民団石川本部では碑の維持補修や、暗葬地周辺の環境整備と毎年、追悼式を営んでおり、韓日両国の多くの人々が慰霊に訪れている。
殉国記念碑と暗葬地碑は、金沢市の公有地に建立されており、これまでも右翼団体の攻撃にさらされてきた経緯がある。
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昨年、日本右翼の人物が、金沢市に対して碑の撤去を求めて提訴した。 その一方で今年1月、韓国KBSの元プロデューサー金某氏が、金沢市内に「尹奉吉義士追悼記念館」を建設すると報道機関を通じて発表すると、複数の右翼団体が「テロリスト犯罪者の追悼記念館開設を許さない」と反発。記念館をめぐる問題が金沢市、民団を巻き込む事態になった。
2月以降、街宣車による示威行動が記念館周辺だけでなく民団石川県本部にも及び、3月には右翼活動家が車両を石川県本部敷地に侵入し外壁に接触させ威力業務妨害容疑で逮捕された。
さらに3月30日には全国各地から街宣車約80台が金沢市内に集結し大音量での街宣を行い、市内の交通を麻痺させ、地域住民や団員同胞の安全が脅かされることになった。また、某右翼団体は、記念館用として中古物件を購入した東京新宿に居住する在日同胞の会社事務所に抗議文を投かんした。
右翼活動家による訴訟は地裁判決を経て今年8月27日、名古屋高裁金沢支部は控訴を棄却したが、記念館問題は引き続き混乱が続いている。
他地域人士による騒動
北陸の温泉、ゴルフなどのインバウンド観光の収益事業を含めた記念館計画を進めた韓国在住の金某氏と東京新宿の在日同胞は、共に石川県に居住してはいない。
また、韓国には正式な「梅軒尹奉吉義士記念事業会」があるが、記念館計画は同事業会とは無関係だという。さらに問題なのは、金沢市や韓国の公的機関、そして地域周辺住民には何の説明もなく進められたとのことだ。
結果、地域の住民と在日同胞の日々の生活が脅かされ、現在、金沢市の公有地にある殉国碑と暗葬地の碑に対する風当たりも強くなった。
また、記念館計画騒動に巻き込まれた地元町内会は反対を表明するに至っている。
事態を受け4月3日に民団中央本部の金利中団長は談話文で「同計画は、韓国在住の個人と日本国内の一企業が計画していた民間事業であることから、在日韓国人を代表する団体である民団としては一切関与してはおらず、また本来その是非を問う立場にもありません。民団はこれまで植民地時代に日本国内で亡くなられた多くの韓国人同胞の各種慰霊事業を、韓国と日本の平和と安寧なる未来のため、日本の地域住民の皆さまのご理解とご協力の下に粛々と行ってまいりました。
しかし金沢市の同事業は、北陸のインバウンド観光事業であるにしても地域のご理解を事前に得ることなく進められ、結果として地域の日本の皆様、韓国同胞の皆様の日々の生活にご不便と多大なる不安をもたらしたことは、民団として憂慮に堪えず、また到底、賛同することはできません」と発表した。
4月24日には、村山卓金沢市長宛ての金利中団長の書簡を任泰洙議長らが村山市長に伝達し、この間の経緯と「記念館問題」に対する民団の姿勢を明らかにした。
席上、村山市長は「住民の理解が得られない計画は見直すべきだ」、民団の姿勢を「心強い」と述べ「市としても地域の安心安全を第一に対応していく」と応じた。
民団は、創団以来、民族の尊厳を守りつつ、韓国、日本の平和と繁栄を目指して活動してきた。 しかし、現在金沢市で進められている追悼館計画は、地域社会や在日同胞の合意を欠いたまま拙速に発表され、結果として地域住民と同胞社会に深刻な不安を与えている。
私たち在日同胞社会は、尹奉吉義士の殉国精神を民族の誇りとして受け継ぎ、92年には殉国碑を建立し、暗葬之地を守り、毎年慰霊事業を続けてきた。右翼による撤去裁判に直面しても、民団は地域社会と協力し、烈士顕彰を守り抜いてきた。これらは在日同胞社会が顕影活動に主体的に取り組んできた揺るぎない実績だ。
私たちは、尹奉吉義士の精神を継承しつつ、在日同胞の安全と尊厳を守る責務を負っている。この立場こそが、在日同胞社会の責任ある姿勢である。ヘイトスピーチや排外主義が再燃しかねない状況で、拙速な追悼館事業は火種を提供するものであり、到底看過できない。在日同胞社会と地域住民の信頼を守るため、私たちは本計画に賛同できないことをここに明確にする。