掲載日 : [18-06-13] 照会数 : 11992
「ヘイトスピーチ対策法」補完へ条例を
公共施設におけるヘイトスピーチを制度的に防止するための「ガイドライン」を今年3月に施行したにもかかわらず、川崎市が極右団体に教育文化会館の使用許可を出してしまったことが最近大きな問題となった。
「オール川崎」で
ヘイトスピーチの根絶に向けて精力的に取り組んできた「『ヘイトスピーチを許さない』川崎市民ネットワーク」は即座に福田紀彦川崎市長に対し、許可の取り消しを要望した。が、市側は「不許可の要件に合致していない」として使用許可の判断を変えなかった。
民団もこれを問題視し5月30日、川崎支部(朴容正支団長)、神奈川県本部(李順載団長)、中央本部人権擁護委員会(李根茁委員長)の連名で市長宛の申入書を市民文化局長に手渡し再検討を促した。その上で「少なくともガイドラインを踏まえて、第三者機関の判断を仰ぐべきだ」と迫ったが、局長からの明言はなく「最後まで情報を収集して検討する」との答弁に留まった。
加えて6月1日には、川崎市日韓親善協会(斎藤文夫会長・田中和徳会長代行)が「使用許可は人権擁護の立場から極めて軽率」と指弾する抗議文を市長に宛てている。
結局、使用許可が翻ることなく迎えた3日当日、ヘイトスピーチに反対する数百人の川崎市民らは「ヘイトスピーチ問題を考える会」を自称する極右団体の集会が始まる1時間以上も前から教育文化会館前に集まり、「レイシスト帰れ!」のシュプレヒコールを一斉に連呼し、対峙に備えた。やがて集会主催者らが現れると体を張ったもみ合いとなり、最終的に講演予定者が入館できなかったことから集会は延期となった。正に「オール川崎」の苦い勝利である。
不可思議な許可
川崎市のガイドラインは、正式には「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく『公の施設』利用許可に関するガイドライン」と言い、その目的には2016年に制定されたヘイトスピーチ対策法が定める地方公共団体の努めに基づき「公の施設における不当な差別的言動を制度的に防止する」とうたわれている。
今回の集会の中心人物がここ数年来、悪辣なヘイトスピーチを繰り返し行っている者であることは報道や本人のブログ上の発言などから明らかである。これをガイドラインの目的に照らせば、彼らへの施設使用許可はあり得ないことであり、むしろ施行後、初の不許可集会として前例を作れたはずであった。
他方、集会と同じ会館と時間帯、小学生に数学の楽しさを知ってもらおうとして企画された川崎青年会議所(JC)による200人規模のイベントが一度は中止の決断を余儀なくされた(他施設に変更)という実害が生じた点も見逃せない。
しかしながら、この2つを突きつけられてもなお「不許可の要件に合致していない」とする判断は、それ以前の川崎市を知る者にとっては理解に苦しむものである。
市の善後策期待
思えば、80年代の外登法における指紋押捺撤廃運動や90年代の公務員採用における国籍条項撤廃運動の先頭に立った川崎市は、ヘイトスピーチ根絶に向けても地域住民に寄り添い多文化共生をめざす自治体だったはずである。その川崎市が今回、自らが策定したガイドラインに反し、何故このような不可思議な許可を出すに至ったのか。
これについては、窓口のミスで出してしまった許可を後で取り消した場合の反発に上層部の腰が引けたという憶測さえ生まれている。川崎市は今回の許可を率直に誤りと認め、ガイドラインの今後の運用について改めて説明することで汚名をすすぐべきではないか。
集会が阻止された6月3日は、奇しくも対策法の施行から2周年の日であった。罰則のない対策法を補完する地方条例の早期制定とそれに基づくヘイトスピーチの着実な規制、および対策法そのもののバージョンアップが切実に求められている今、川崎市が取るであろう善後策に期待したい。
(孫成吉生活局長)
(2018.06.13 民団新聞)