掲載日 : [18-06-01] 照会数 : 11063
【書評】植民地支配下の韓国の四季描く「画家・加藤松林人」
[ 加藤松林人(画・文)2200円+税 彩流社03(3234)5931 ]
日本の韓半島植民地支配下で朝鮮総督府が神経を使った一つは日本人と韓国人の雑居をできるだけさせず、日本人と韓国人を交流させないことである。
しかし、韓国の地で生まれた者の中には、その地の風土や暮らしに馴染み、親しみを覚える人もいた。
本書の著者、加藤松林人もまたその一人であった。
日本に帰ってから、かつて韓国にいたとき、交流していた絵画仲間の金殷鎬、李象範、許百錬らを懐かしみ、彼らのその後の消息を案じている。
加藤松林人の本名は倹吉であるが、松林人と名乗るようになったのは枝ぶりが飄々とした朝鮮松の林に由来するようである。
加藤松林人や本書の口絵や179~186頁に触れられている浅川巧、それに校訂者である河田宏が数年前に著した朝鮮農業の発展のために半生をかけて韓国全土を踏査した農学者の高橋昇ら、総督府の植民地支配ばかりではなく、加藤のような人々がいたことも忘れてはならないだろう。
加藤松林人は日本の敗戦とともに帰国してからも、韓国の動向に関心を寄せ、心痛めたかが本書を通じてよく伝わってくる。
滋賀県大津市に居を定めた加藤は、近隣の「韓国的」な所を求めてしばしば足を運んだし、京都韓国学校や大阪の金剛学園などでも夫婦で絵画を教えた。
画家自ら魂を込めた挿画と随筆は見事に協奏しており、親しみやすく、生き生きとしている。口絵カラー22点の絵だけでも、手に取ってみるに値する。