民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
日本記者が2000年に贈る
在日へのメッセージ



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自己同一性の継承が課題
石原 進(毎日新聞新潟支局長)

 2000年の幕開けは、コンピュータの誤作動への懸念はともかく、何となく心ときめくものがあります。日韓にとって「不幸な歴史」を引きずった1900年代に区切りをつけ、新たな時代への期待がふくらむからです。

 まずは、2002年の日韓共催のワールドカップサッカー。新時代の日韓関係は、大きく花開くに違いありません。地方参政権問題も遠からず解決し、在日の生き方にも、変化が表れるのではないでしょうか。

 一方で、日本の人口は、21世紀末に半減する、といいます。「在日」もこのところ毎年1万人以上が帰化し、21世紀半ばには、存在そのものが危ぶまれるとの見方があります。

 「在日」のアイデンティティをどう継承するのか。21世紀は、課題もより大きなものになるでしょう。


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金剛山で日韓首脳会談
小林一博(東京新聞論説副主幹)

 20XX年X月  大韓合衆国大統領 南北統一後の国づくりや後始末も十数年してようやく一段落した。これから北東アジア安全保障機構を充実させ、地域の安定を確固としたものにしよう。

 日本国首相 来年は玄界灘トンネルが完成し、日韓の鉄道がシベリア鉄道に通じ、黄海や日本海経済圏を大きくまとめ、統一通貨をという案もある。よくもここまでと感無量だ。

 金剛山麓で日韓首脳会談が開かれ…。ここまで来て初夢からさめた。

 アジアは、20世紀末の経済混乱から立ち直り、国と国、人と地球・宇宙との共生を理念に、穏やかな繁栄を享受している。

 地域の連携を推進した最大の要因が、朝鮮半島の南北統一だった。

 確か、その過程もしっかり夢に見たのだが、先ほどのおとそのせいか、失念してしまった。


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目が離せぬ韓半島情勢
大田明彦(産経新聞浦和総局長)

 米ジョージワシントン大のヤン・C・キム教授は昨年末、都内で開かれた「21世紀 朝鮮半島の平和と統一」問題の北東アジア・シンポジウムで、統一のパターンとして(1)戦争(2)南北合意(3)政府機能マヒによる統一―を挙げた。

 しかも、どちらかが戦争を仕掛けることは考えにくく、対話による「高麗連邦制」も実現困難なことから「北朝鮮が改革開放政策の導入で体制の正当性が低下、反政府行動が拡散して崩壊するパターン」が最も考えられる―としていた。

 そうした中、日本政府は対北朝鮮制裁を解除、国交正常化交渉に乗り出し、韓国、米国との協調を重視した「ペリープロセス」に基づいた政策だと説明している。果たして「20世紀に起きたことは20世紀中に解決しよう」とのスローガンがどのような展開を見せるか。今年も朝鮮半島から目が離せない。


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独自の存在証明する時
石高健次(朝日放送報道プロデューサー)

 在日コリアンにとって新たな時代とは?

 私は「在日人」とでも言うべきアイデンティティが確立されることだと思う。

 もちろん日本人ではない、かといって本国と同じような韓国人(朝鮮人)でもない。子々孫々を日本で生きるコリア系永住民としての独自の存在証明を在日自身の手で明確に打ち出すべき時が来ているのではないか。

 かつて、民族運動のなかでは心地よく響いた「祖国」「統一」という言葉。そこから解き放たれて、「日本永住」という視点から、現状点検と将来の展望を打ち出していく。

 例えばの話。ワールドカップのサッカーの共同開催にしても、日本人選手に熱狂する在日がいてもいいだろうし、それらを冷たい目で見たり、無理矢理韓国に肩入れさせようとしない、そんな「自由さ」が素晴らしいと思うのだ。(黙っていてもそうなるか)


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真の「東洋平和」韓半島関係から
小田川 興(朝日新聞編集委員)

 日本と朝鮮半島の関係で20世紀に起きた最大の事件の一つは安重根による伊藤博文射殺でした。1909年、ハルビン駅頭に響いた銃声は弱肉強食の帝国主義時代はかならず終わりが来ることを予告する警鐘でした。同時に、国家と民族の主権を侵す者に命をかけて抵抗する人間のあかしでもありました。安重根は取り調べで主張しました。「私怨からでなく、韓国の独立と東洋平和の維持」のために伊藤を撃った、と。

 しかし、あれから90年が過ぎ、新たな世紀の門口に立っても依然、「真の東洋平和」は遠いのです。

 でも、希望はあります。98年の日韓共同文書に、植民地支配に対する日本の「お詫び」が明記され、新たな交流が始まりました。日朝も国交交渉へ動きだしました。過去を教訓に、共生の世紀を開くための知恵を発揮したいと思います。


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韓日両国の絆、在日が埋めて
宇惠一郎(読売新聞解説部次長)

 近所のビデオショップに韓国映画「8月のクリスマス」が並ぶ。ソウルの映画館では邦画の「ラブ・レター」が人気だという。日韓を取り巻く状況は1900年紀の最後に驚くほどの変貌を遂げた。新しい年は2002年W杯への熱気の中で幕を開けた。この熱を2002年を越えて冷まさぬ努力が問われている。

 「韓国であり韓国でない、日本であり日本でない」。ともすれば否定的にとらえられがちだった在日の文化、社会が、その特質ゆえに両国の溝を埋める大きな可能性を持っていると期待する。

 在日の皆さんが考える以上の力を秘めている。指紋押捺拒否運動が偏狭な日本社会に大きな風穴を開けたように、定住外国人の地方参政権獲得運動が、再び日本社会に問題を投げかけている。在日の皆さん、さらに声を大きく。あなたが、そして私が暮らす日本のより大きな発展のために。


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平等意識進め、無二の親友に
塚本壮一(NHK国際部記者)

 日本人と韓国人は、ついに、仲のよい隣人として暮らしをともにする新たな世紀を迎えました。

 これまでの歴史で双方は、不合理な「優越感」や「劣等感」をもって相手と向き合ってきました。日本を訪れた朝鮮通信使は江戸の庶民をどこか小ばかにしたところがありました。20世紀、今度は日本人が植民地支配を通して差別意識を持ちました。日韓国交樹立後も双方は、やれどちらの文化が高いか低いか、経済が進んでいるとか遅れているとか、あまりにも過剰に優劣を論じたものでした。

 日韓は平等である。あたりまえの認識が、ようやく広がり始めました。日韓となると情緒的に反応し、優越感にひたったり劣等意識を持つ、そんな発想からようやく双方とも自由になろうとしています。両者が無二の親友になるのも夢ではないと思うのです。もちろん、努力が要りますが。


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韓国文化の更なる輸入を
東実森夫(時事通信社会部記者)

 私の中では、「在日」の韓国と現実の韓国がぶつかり合っている。在日の多い大阪で幼いころを過ごし、学生時代に在日の人たちと韓国史を学んだ体験。それと、記者として4年間ソウルに駐在し、実際に見聞きした韓国の現実とがうまく結びつかないのである。

 在日の多くの人たちからは、その生き方に感銘を受けたが、韓国文化のにおいを感じることはあまりなかった。ソウルで暮らして初めて、韓国の踊りや歌などの文化に触れ、その美しさと躍動感に感動した。韓国人の権威主義には閉口したが…。

 いま求められているのは、優れた韓国文化を輸入し、日本人の感性に訴えることだと思う。伝統文化に限らず、現代の大衆文化にも優れたものが数多くあるはずだ。それらに接することで、日本人の韓国理解が深まり、在日の人たちへの意識も変化するのではないだろうか。

(2000.01.01 民団新聞)



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