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カウンター・レポート



 隣席の青年が連れの女性の前で涙を拭った。映画「シュリ」の試写会でのことだ。確かに韓半島の分断による悲恋は感涙ものだし、激しい銃撃戦は噂通りの迫力がある。

 弱くなったとは言え、日本男児が泣くほどだから大ヒットを予言する象徴的出来事だったのかも知れない。ハリウッドを超えたという声さえある。だが、その評価は果たして真実だろうか?

 戦争を背景に、愛や人間の尊厳について深く考えさせられる映画はこれまでにも数多くあった。古くは「カサブランカ」「第三の男」から、昨年公開された「ライフ・イズ・ビューティフル」まで。

 これら大戦下の欧州、北アフリカを舞台とした佳作と、現在も準戦時下にある祖国の物語には共通のテーマが流れる。だが日本の青年と違って在日の私は泣けなかった。

 題材は素晴らしい。しかるに完成度が高くないからだ。構成がやや雑だし、展開に首を傾げる部分もある。精鋭とは言え、北の少数部隊が多勢の韓国特殊部隊を圧倒してしまうなど、現実味も薄い。

 残念だが評判を鵜呑みにすべきではない。なるほど、執拗に反復される殺戮場面と編集前のラッシュのような画面展開は、化学調味料の様に刺激的だが、感情の自然な起伏を麻痺させる効果を狙った制作者の意図が伺える。いわば条件反射的ショックを感動と錯覚させられた、興奮状態での論評に過ぎないからだ。

 母国の映画が話題になるのは喜ばしいが、鑑賞後の冷静な所感が以上である。それでも「シュリ」はヒットするに違いない。日本の観客の大部分が若年層で、ハンバーガー世代に他ならないから。

 気の毒なのは私の隣で泣いた素直な青年だ。本物に感動する経験に、未だ出会ってない様だからである。(S)

(2000.02.02 民団新聞)



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