民団新聞 MINDAN
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芥川賞の玄月さんに聞く



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次作も「生野」描く長編
30代在日青年の生い立ちで

 はじめて活字になったのは『異境の落とし子』。これも今回の集落を舞台にした話。『蔭の…』の主人公の老人は、構想中の登場人物。ある日新聞で見た在日韓国人の戦後補償裁判をもとに書いたのが今回の作品。

 昨年『おっぱい』でノミネートされ、6作目で受賞した。作品の中に出てくる広大なバラックは本当は無い。けれど10軒20軒の小さなバラックは、私の子どもの頃にもいっぱいあって、そこに住んでいた中学の友人宅に遊びにいった記憶からイメージをふくらませた。

 主人公の文ソバンのモデルはいないが、在日の戦争負傷者を見たことがあるし、僕の中での老人像も含めて人物化した。

 4年ほど構想を温めている長編は、『蔭の…』に出てくる集落で生まれ育った、私と同年代の在日青年の生い立ちから現在までを描いた作品。

 小説を書くにあたってテーマを設けない。今回は2500坪の広大なバラックというイメージからはじまって、負傷した老人が登場する。そして他の人物の性格を決めれば物語が自然に動いていく。

 だからそこに、自分がこの作品で何を訴えたいかという意図を差し挟む余地もなくなる。ただ、書いている私の過去の体験や見聞、考え方が投影されてくる。だが、作者の意見を代弁させている登場人物はいない。結果としては出るかも知れないが。その読み方もいろいろあると思う。

(2000.02.02 民団新聞)



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