民団新聞 MINDAN
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民族学級の昨日、今日

<3>講師の身分保障で格差



同胞保護者や民族講師の生の声を
届ける大切な機会となっている行政交渉

■府費と市費で位置づけバラバラ
 教員並から「謝礼」程度まで

 現在、大阪府内公立学校における民族学級などの課外活動は、170校以上にものぼり、当面、これからも数的拡大は続くとみられる。その一方で、制度面での進展は必ずしも進んでいないのが現実だ。これは、大阪市の例をみると分かりやすいだろう。

 民族講師は現在、3種類の制度保障のもと民族学級に携わっている。

 まず一つ目の例をみてみよう。大阪市内では現在、7校において常勤民族講師が措置されている。この7校は、前々回にふれた覚書に基づく民族学級であり、80年代後半から90年代初期に後任措置された。当初は非常勤待遇であったが、前任の民族講師が教諭待遇であったことから制度後退が指摘され、この間の運動のなかでほぼ教員並みの待遇に近くなってきた。

 続いては二つ目の例だ。これは「大阪市民族クラブ技術指導者招聘事業総括技術指導者制度」に基づいて措置されている専任民族講師(総括技術指導者)のことである。この専任民族講師は、拠点校を含めた3校の民族学級(クラブ)に週24時間を上限に携わるというもの。社会保険、雇用保険、失業保険の各種保険と、手取り約十一万円の給与を受け取る。97年に始まったこの制度に基づいて措置されているのは現在6人だ。

 そして、最後の例が「大阪市民族クラブ技術指導者招聘事業」に基づく民族学級(クラブ)に従事する民族講師である。これは前記制度の前身ともなった事業で、市内の民族学級数が急激に拡大するきっかけにもなった。しかし、民族学級での活動は週1回と規定している。しかも、その1回当たりの謝礼としては、わずか3850円(99年度現在)が支払われるにすぎない。こうした限界性によって、民族講師の身分保障にはほど遠いものとなっている。現在のところはこの事業に基づく民族講師が最も多い。

 上記三つの制度のどれを適用されていても、現場の民族講師個人の働きにはさほどの差異はない。いまや民族講師は、放課後に学校に赴き、取り組みが終わればすぐ帰るという生活ではない。例えば、この文章を書いているきょう(99年12月)、大阪市外教主催で「子ども民族音楽会」が開催され、民族学級で学ぶ多くの子どもたちが出演した。こうした「音楽会」や「校内発表会」、さらには地域での取り組みである「つどい」や「サマーキャンプ」への準備も民族講師の大事な仕事となっている。


■生活苦で現場去る民族講師も

 これ以外にも、担当教員との打ち合わせや校内の在日外国人教育部会への参加、はては保護者会活動にも加わる。いざ、差別事象が発生すれば、家庭訪問もしなければならない。

 制限された民族学級の取り組みゆえに、限られた時間をいかに有効的に活用するかが課題だ。準備、事後処理など、取り組みの前後にわたって民族講師は学校現場での業務に携わっている。さらにはここ数年、民族講師が正規の教育課程内の授業にサポート参加する場合も急増している。

 これらの実態を考えるとき、民族講師が3つの制度で、バラバラに位置付けられていることの問題性は決して小さいとは言えない。特に、1回いくらの"謝礼"では、安定的な取り組みへの支援とは言えまい。それを象徴するかのように、毎年、少なくない数の民族講師が、「生活が成り立たない」ことを理由に学校現場から去っていっているのだ。

 民族講師たちは、地域講師会や大阪府民族講師会を運営、各自が研修や資質向上に取り組んでいる。一方では、物品販売や民族文化公演などで各地を巡回、その収益金を専任講師を含む民族講師らが分配しあいながら、やっと生活を支えあっているのが現状だ。また、多くの民族講師が、単独で医療保険にも加入できていないなど、独立した社会人が人生設計にとって必要不可欠な各種社会保障を受けられていないという事実は、一言で言って衝撃的ですらある。

 民族講師らを子に持つ親が、この仕事を続けることに反対する気持ちは当然である。

 近年、どんな民族教育を目指すのかという議論が活発である。「同胞社会の発展」「人権文化の確立」「多文化の学校づり」ー。どれも重要な議論ではあるが、「同胞社会」も、「人権」、「文化」も、そして「多文化」も、行動が求められるいちばん"しんどい"部分にしっかりメスを入れていかなければ、井戸端会議の域を脱しきれない。

 大阪だけでも3000人を超える同胞の子どもたちが、いや、それ以上のすべての子どもたちの現場に民族講師が携わっている現実。なのに、この制度不備をこのまま放置しますか?

 (金光敏・民族教育促進協議会事務次長)

(2000.02.02 民団新聞)



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