民団新聞 MINDAN
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「傍観者たち」



 「死んだ人々は、もはや黙ってはいられぬ以上、生き残った人々は沈黙を守るべきなのか?」(ジャン・タルジュー「詩人の光栄」)。

 もの言わぬ死者が雄弁に語り、今を生きる生者が「沈黙は金」とばかりに「見ざる、聞かざる、言わざる」の態度に終始する。この逆説をどう読めばいいのか。

 冒頭の詩は元「赤旗」特派員のジャーナリスト、萩原遼さんが書いた『ソウルと平壌』に引用されているもので、萩原さんは「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の共同代表の一人として、「帰国」同胞ら約10万人のために闘っている。夜間高校で知り合った友人も希望に燃えて「北」に帰ったが、いまだに行方が知れないという。

 一見平和な日本で日々の生活にのみ追われていると、自分以外の世の中の動きが見えにくくなるのか。それとも「北朝鮮のことは、オレには関係ないね」とでもいうのだろうか。1959年から始まった北への「帰国運動」によって、闇に消えた人々がいるというのに、40年前の歴史が在日同胞社会の中で風化しつつある。歴史の断絶と風化は、為政者による歴史の歪曲につながりかねない。

 生まれた時代と親の所属が違えば、私たちも「帰国船」に乗っていたかもしれない。在日同胞にとって「20世紀最大の悲劇」と、歴史家は喝破したが、21世紀を前にこの醜悪な事態に終止符を打たねばならぬ。

 もつれた運命の糸と掛け違いになったボタンを、遅きに失したとはいえ、世論の力で元に戻そう。それは南を支持するのであれ、北を信奉するのであれ、私たち在日同胞にこれ以上「恨(ハン)」を残さないためである。決して「北」バッシングに便乗しようという類のものではない。(C)

(2000.03.08 民団新聞)



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