民団新聞 MINDAN
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入学シーズンを控えて

子どもの通学名をどうするか
−読者の意見から−



 入学・就職シーズンを控えた1月と2月、民団新聞で本名か通名か「子どもの名前をどうするか」についての投稿を読者に呼びかけたところ、20代と50代を除く、10代から80代までの在日同胞から様々な意見が寄せられた。それら意見から本名の問題をどのようにとらえているかを紹介する。


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「差別される」は甘え、自ら一歩踏み出せ

 全体的には「名前」に関して賛否両論が寄せられた。一方で、模範を示すべき立場にある在日一、二世自体が本名を名乗れていない実態に対して厳しく指摘した70代の男性の意見もあった。また本名を使う父と日本の戦後教育を受け、小中高と通称名を名乗ったた娘との葛藤、そして韓国の伝統舞踊との出会いから本名に変化していった娘の生き方などの体験談を綴った60代の男性は、「どちらでも」と表現するが、親の責任としてがんばりと執着を持つ人間形成教育を行えば、自ずとアイデンティティに目覚めると考えているようだ。

 高校卒業後、本名を使うことで「本当は韓国人」と言わなければいけないという緊張感から解放され、子どもに同じ思いをさせたくないために本名しか付けなかった40代の主婦は、本名の問題を真っ正面からとらえる二世の典型と言ってもいい。


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通名棄て、本名だけ与えた親に感謝

◆プリ自覚しなければ

 重要なのは自分の立場や「プリ」(ルーツ)を自覚していれば、通名や本名などの課題はとるに足らず、本人や家族の事情で決めれば良いと、現在も通名を使用する30代の男性など、忌憚のない意見が寄せられた。

 いずれにしても、通称名を名乗って日本社会に埋没するという消極的な生き方には反対する意見が多数であった。

 大阪市生野区の鄭聖希さん(15)は通名を持たない中学2年生。今まで韓国人という理由で差別にあったことはないが、それは在日同胞の多住地区だからかという思いもある。「両親は本名しか与えてくれなかった。私はそれを感謝している。もし、日本名を持っていたら、自分という存在がすべて、いつわりというような感じがし、両親を恨むと思う」と今後、様々な経験を糧にしていきたいと肯定的にとらえている。


■隠さず言える存在に

 兵庫県尼崎市の男性(30)は「韓国人としてのプライドやアイデンティティは名前のような表面的なものではなく、もっと内面的なものにあると思う。『自分は韓国人です』と隠さずに言え、またそれを謙虚に受け止めることではないかと思う。だからと言ってそれを一切、伏せている人を非難する気は全くない。その人にもその人なりの諸事情があるからです」。

 3人の子どもたちを本名で幼稚園から大学まで通わせた、大阪府東大阪市の姜玉子さん(49)。「日本で生活していく上で、いろいろ事情があると思いますが、せめて学生の間だけでも堂々と本名を名乗る人生で最適なチャンスだと思います。このことを大事にすべきではないでしょうか」という。

 「人は誰しも、どこに住もうと出自を隠さず民族名で堂々と生きてゆくのは、理の当然」と話すのは名古屋市港区の金鳳祚さん(71)。しかし、在日同胞の一、二世の圧倒的多数は、日常生活や事業活動において、通名を使用していると指摘しながらも、「欧米各国と異なり、マイノリティに対する接し方が成熟しているとはいえない日本社会において、事業をはじめ、いろいろな面で不利益を被るであろう現実を勘案する時、本名か通名かは、残念だが、個々人の判断に委ねるほかないのでは」と、もどかしさを感じている。


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アイデンティティの確立こそが民族名に

■勇気を持って

 一方、通称名を使うのは仕事などに支障があるからという意見に真っ向から反対するのは東京都に住む李徳珍さん(44)。「これまで外国人排除色が強かった日本の財閥系企業にも本名で就職している同胞がいる。日本社会の状況が変わりつつあるのに、10年一昔のごとく『差別される』と日本社会のせいにするのは在日同胞の情けなさ。状況が変わりつつあるときになぜ自らが一歩を踏み出さないのか。勇気を持って本名を使ってこそ、尊敬される在日韓国人になるだろう」と厳しく指摘する。2人の子どもは本名で学校に通わせているという。

 「在日韓国人ほど、自らの名前について考える人間はいないだろう」と率直な意見を寄せた大阪市生野区の鄭聖愛さん(16)。

 世代交代が進む在日社会だが、未だ「本名か通名か」という問題に翻弄されている在日同胞の現実がある。ここで紹介したのは一部ではあるが、地域や生まれ育った環境、年代こそ違うものの、どの投稿も示唆に富む内容であった。これを幾に在日同胞の皆さんが自身の問題、在日子弟の問題として受け止めてくれることを願ってやまない。

(2000.03.29 民団新聞)



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