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KOREAN SOCCER REPORT・アジアの虎の鼓動「宿命の対決」

慎武宏(スポーツライター)



許丁茂・韓国代表監督

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伸び悩む韓日A代表
両監督とも去就かけた正念場

 「サッカーはわが国の自尊心だ」。韓国に行くとかならず耳にする言葉だ。韓国人のセン在意識の中にはサッカーに対する熱い愛着がある。そして、その愛情がもっとも注がれる代表チームの韓日戦が、4月26日、ソウルの蚕室オリンピックスタジアムで行われる。今回はライバルを迎え撃つ代表チームの現状を紹介したい。

 世宗大学で体育学の教鞭に立つ傍ら、大韓蹴球協会のW杯対策本部とも言うべき2002年W杯支援団の技術支援チーム長を務める李容秀氏は、かつて私にこなことを教えてくれた。

 「ウリナラの人々は誰もが潜在意識の中にサッカーに対する特別な愛情を抱いている。なぜかって?サッカーはいつも韓国の歴史とともにあったからさ」

 そうなのだ。日本の統治下にあった戦前はサッカーが民族の鬱憤を晴らし、韓国動乱や政治不安が続いた戦後はアジアで好成績を挙げる代表チームが人々に希望を与え、彼らを応援することで韓国全土がひとつになれた。しかも、高度経済成長期を迎えた1980年代の突入とともに代表チームはW杯などの国際舞台の常連に。

 こうした現代史との密接な関係があるからこそ、韓国においてサッカーは愛国の象徴であり、民族の誇りなのである。

 その韓国サッカーのシンボルとも言うべき代表チームが4月26日、蚕室オリンピックスタジアムで日本代表と親善試合を行うが、今回の韓日戦も“宿命対決”と形容されるにふさわしい試合になりそうな予感。特に韓日両国の指揮官にとっては今後の進退が掛かった一戦になりそうだ。

 韓国の許丁茂監督と日本のフィリップ・トルシエ監督。この2人は意外と共通点が多い。ともに55年生まれ。98年のフランスW杯終了後に、それぞA代表と五輪代表の舵取りを任され、ともにチームをシドニー五輪に導いた。

 しかし、両者ともA代表ではこれといった好成績を残していない。韓国は昨年3月、ブラジル相手に大金星を飾ったが、その後はベルギーに敗れ、メキシコ、エジプト、クロアチアに引き分け。今年2月には五輪代表などの若い世代も加えた事実上の2002年W杯メンバーとも言うべき布陣でゴールドカップに参戦したが、カナダ、コスタリカに引き分け、不本意な結果に終わった。日本がそうであるように、韓国も決定力不足に苦しんでいるのだ。

 しかも、許丁茂監督は昨年9月の韓日五輪代表親善試合で2連敗を喫している。車範根前監督が対日本戦二連敗した98年春、国内では「日本に2連敗してもクビにならない」と揶揄されたものだが、3連敗ともなれば世論が許さないはず。これといった後任者が見当たらない協会が決断を渋っても、許丁茂監督自らが辞意を表明することも考えられる。

トルシエ・日本代表監督

 日本ではトルシエ監督の去就問題は韓日戦で決着すると報じられているが、許丁茂監督にとっても勝負の一戦なのだ。それゆえに“珍島犬”の異名を持つ指揮官は、「9月まではシドニー五輪のための強化に主眼を置くが、4月の韓日戦に限り、23歳以上を含めたベストメンバーで挑む」と意気込んでいる。

 日本は中田英寿もイタリアから呼び戻すという。韓国も洪明甫らコリアンJリーガーを招集するだろう。

 ただ、その台所事情は厳しい。帰国した昨季Jリーグ得点王・黄善洪は故障リハビリ中で、若きエース・李東國もヒザのケガで出場が微妙なのだ。

 それだけに頼みの綱は先のアジアカップ一次予選で活躍し、韓国を10月の本大会へと導いた五輪世代の選手たち。そして、対日本戦になれば最高潮に達する選手たちの“自尊心”に期待が集まる。ほかならぬ許丁茂監督自身が、その自尊心を賭けて韓日戦に挑むことだろう。

 大韓蹴球協会の発表によると、今年12月には今度は日本での韓日戦が予定されているいう。果たして、そのときベンチに姿がないのはトルシエ監督か、許丁茂監督か!?

 今回の韓日戦。名目上はは親善試合だが、現場責任者の2人にとっては、ともに勝利を譲れない決戦になること間違いない。

(2000.04.12 民団新聞)



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