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介護保険で総合窓口開設を



 介護保健による保健・医療・福祉サービスが1日からスタートしました。これらのサービスに国籍条項はありませんが、介護保険制度がいまのところ在日同胞高齢者の生活実態やニーズを必ずしも反映したものとはなってはいません。そのため、様々な不利益が現実のものとなりつつあります。


■在日同胞の特殊性素通り

 まず、いまだに制度的無年金者への救済措置が取られていせん。在日同胞は1961年の国民年金スタート時点では国籍条項に阻まれ、加入したくても加入できませんでした。国籍条項が無くなってからも、「カラ期間」の関係で受給額は少なく、1986年4月の時点ですでに60歳以上になっていた高齢者に至っては完全に切り捨てられたままです。たとえ、保険料の軽減措置がとられたとしても、無年金の在日同胞高齢者が滞納するなどして事実上利用できない介護サービスにならないか心配です。

 また、「役所と警察に行って何もいいことなかった」というように、公的サービスから離れて暮らさざるをえなかった在日同胞一世にとって、「役所」という存在は、実に敷居が高いものとして映ります。ともすると、自ら進んで行政の窓口に足を運ぶのをちゅうちょしてしまいがちなのです。

 さらには非識字者が多く、役所から介護保健サービスに関する様々な情報を送られてきても読めない、わからないというのが実状なのです。年を経るに従い第二言語たる日本語を忘れ、母国語しかしゃべれなくなるというお年寄りも珍しくはありません。病院で「ムル(水)」と叫んでも理解されず、周囲からは「なにをうめいているのか」といぶかしがられたという話も現実にあったと聞きました。


■民族的ニーズの違い行政に

 在日同胞高齢者は地元のデイサービスや地域の老人会に参加してもなじむことができず、ともすると居場所を失いがちです。こうした現実に対して行政当局の理解は十分とはいえません。「韓国・朝鮮人であろうと、日本人であろうと、差別なく対処しています」と話すなど、民族的ニーズには未だ思いが至らないというのが現実です。

 私たち民団としても、まずはこうした在日同胞一世の歴史的、社会的、文化的背景の違いを行政側に訴え、理解を求めていく必要があります。民団大阪・泉北支部が行政当局から公的補助金を得て街かどデイハウス「ムグンファハウス」をオープンできたのも、民団側が民族的ニーズの違いを地道に、そして長い時間をかけて訴えてきたからこそでした。

 日本のなかで辛酸をなめ尽くす生活を余儀なくされた在日同胞一世高齢者は、日本社会で豊かな老いのひとときを過ごすことが保障されてしかるべきです。そのためにも、行政には在日同胞高齢者施策を推進していくための総合窓口の開設を求めます。在日同胞高齢者が希望すれば、韓国語を理解できるヘルパーからの介護を受けたり韓国食の配膳サービスを利用できる、またはそうしたサービスを選択できるようにするためにも、行政としても窓口で指針・方針を作り、各地域の福祉施設機関に下ろしていくべきです。

 介護保健法第1条には、介護について、社会全体で支え合うという趣旨の「国民の共同連帯」が、理念としてうたわれています。全国で7万人を超える在日同胞一世高齢者のうち、介護保険を必要とする高齢者は約8000人と推定されます。これらのお年寄りが社会全体で敬われ、豊かな老いの時を送れるよう、いまいちど「共同連帯」の意味を考え直してもらいたいものです。

(2000.04.12 民団新聞)



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