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丁讃宇さん

幻のハンギョレ公演、6月に開催



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音楽で「統一」の道開きたい
「朝鮮」籍の指揮者、金洪才さんと共演

 在日韓国人2世のバイオリニスト、丁讃宇さん(50)が、「朝鮮」籍指揮者の金洪才さん(45)とともに、政治的立場や主義・主張を超えた音楽会を6月8日、東京の三鷹芸術文化センターで開く。初の南北首脳会談実現を前に、在日同胞社会からも南北統一を願う熱いメッセージを発信していこうとの丁さんの呼びかけに金さんが応え、急きょ実現した。丁さんにとっては幻に終わった「ハンギョレ・コンサート」が15年ぶりに実現する。

 丁さんは韓国KBS交響楽団(旧、韓国国立交響楽団)の首席コンサートマスターを歴任、延世大学教授として後進の指導にあたってきたが、3月から日本に活動の拠点を移している。そんな矢先、初の南北首脳会談が実現しそうだとの新聞報道に接した。

 丁さんはびっくりしたという。「う余曲折はあろうがこれで統一への道が開けるのでは」「本当ならば、じっとしていられない」とばかり、早速コンサート会場を探した。15年前実現できなかった幻のコンサートを今度こそ実現しなければとの思いからだった。運良く会場を押さえるとその場で金洪才さん宅に連絡、共演の約束を取り付けた。

 金さんとの共演は85年4月4日、大阪で実現するはずだった。ところが、韓国を出国直前の3月23日、金浦空港でパスポートを取り上げられ、実現しなかった。

 音楽会は在日韓国人の金聖元さんと、朝鮮総連組織の現職音楽家(当時)だった李テツ雨さんが共同で企画した。折しも韓国は3年後に迫っていたソウル・オリンピックに北韓の参加を認めるなど対話ムードが高まっていたとき。実現すれば、「初の統一コンサート」になるはずだった。

 しかし、当局は政治的意図を疑ったようだ。丁さんに遠回しながら翻意を迫ってきていた。それでも「強行突破」を図ったが果たせず、空港からソウルの自宅に追い返された。「音楽家がなぜ、政治の思惑に左右されるのか」。丁さんは当時、素朴な疑問を解消できなかった。

 丁さんと金さんとの出会いは、演奏会を前にした大阪での記者会見場が初めてだったが、東京へ帰る新幹線車内で話し合ううちにはすっかり意気投合していた。韓国・「朝鮮」籍の違いはあっても、「在日」という共通の立場では理解し合えた。それだけに、共演が実現できなかった丁さんの思いは複雑だった。

 当日、丁さんが金さんの指揮をバックに演奏する作品の一つ、「ニーグン〜21世紀への祈り」は、静かな中にもユダヤ人としての激情がほとばしる曲。丁さんは「在日韓国人の気持ちを代弁できる曲。日本で苦難の人生を歩んできた在日同胞1世を背景に、今日の自分があることを日本の方に訴えたい」と話す。また、アンコールに選んだ「リムジン江」には南北の統一を願う在日同胞のメッセージを演奏に託している。

 丁さんは5歳からバイオリンを始めた。周囲の民族的蔑視の視線のなか、バイオリンを自らのアイデンティティのよすがとして生きてきた。中学校3年生で初めて本名を名乗り、芸術家としてはもとより、民族的に生きる決意も固めた。

 小沢征爾の出身校として知られる桐朋学園大学を卒業してパリ国立音楽院に留学、同大学院在学中にNHK交響楽団をバックに東京でデビュー。その後、韓国国立交響楽団に最年少楽長(コンサートマスター)として招かれた。日本では、その演奏ぶりを「大陸的で身振りも大きく激しい」と評される。しかし、韓国では逆に「なんでそんなに繊細なんだ」とも言われたという。こんなところにも韓国と日本の両方の文化を背負った在日同胞としての丁さんの特質がうかがえる。

 三鷹市芸術文化センターでのコンサートは6月8日午後7時開演。全席自由4500円。問い合わせはブレーメンハウス、03(3335)4641まで。



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