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在日へのメッセージ

「15年ぶりの再会」
明珍美紀・毎日新聞社会部記者



 その日は冷たい雨が降っていた。傘をていねいにたたみ、扉を開けた金洪才さん(45)を、丁讃宇さん(50)が招き入れ、2人は固く抱き合った。4月26日、「政治の壁」にはばまれ、共演を果たせなかった2人の音楽家は、15年ぶりに再会した。


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 2人が無念の思いをかみしめた1985年4月4日の「ハンギョレ・コンサート」。東京生まれの丁さんはパリ留学後、米国やアジア各地を公演し、当時はKBS交響楽団のコンサートマスターを務める気鋭のバイオリニスト。一方、神戸出身の在日朝鮮人の金さんは東京シティ・フィル、名古屋フィルのほか、平壌でもタクトを振った注目の指揮者で、それぞれ活躍する2人の初共演に、人々は胸を膨らませた。

 ところが、韓国を拠点に活動していた丁さんは、公演直前、空港で出国拒否にあった。「あの時はマスコミも『統一のハーモニー』と騒いだ。もちろん統一を願う気持ちはある。だが僕らは純粋に共演を楽しみにしていた」と丁さんは振り返る。

 「初の南北首脳会談へ」のニュースに再び2人の気持ちが重なった。丁さんの呼び掛けで6月、東京で行われるコンサートは、あの時と同じように京大名誉教授の上田正昭さん、作家の藤本義一さん、随筆家の岡部伊都子さんが世話人を引き受けた。岡部さんは「この日をどんなに待っていたことか」と声を詰まらせ、「なぜ在日の人がいるか、私たちは知らなければならない。これは日本人の問題なんです」と繰り返した。


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 再会の緊張も溶け、2人の会話は2時間に及んだ。音楽のこと、家族や愛犬のこと。そして自分自身のこと。「僕は日本人でもないし、韓国にいても、どこか違和感がある」と丁さんがぼやくと、「どこに行っても外国人なんだよね」と金さんが相づちを打つ。「日本と朝鮮半島をまたぐ空の上。そこが祖国なのかなあ」。丁さんのしんみりとした顔が忘れられない。

(2000.05.10 民団新聞)



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