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人種差別撤廃条約の日本政府が報告書

NGOが懸念を表明
実効性欠く啓発措置、民族的少数者認定に消極的



 人種差別撤廃条約の実施状況をまとめた日本政府の「第一回・第二回定期報告書」が来年一月、ジュネーブの国連欧州本部で審査される予定だ。これに先立って日本の各NGO(非営利・非政府組織)では、カウンターレポートの作成に向けて昨年末から定期的な情報交換会を重ねている。「日本のコリアンマイノリティの権利に関するNGO合同レポート」では、日本政府報告書が言及している民族差別撤廃のための啓発活動の実効性に疑問を投げかけている。

 日本政府報告書は「在日韓国・朝鮮人」について、「差別意識は確実に改善の方向に向かっている」としながらも、「就労、入居等に関する差別、差別言辞や差別落書き事案等、日常生活において依然私人間での差別が見られ」「在日韓国・朝鮮人の中には、その本名を名乗ることによって起こる偏見や差別を恐れ、日常生活において日本名を通称として使用する場合もみられる」と認めている。これに対して日本政府としても「憂慮」を表明、法務省の人権擁護機関などが強力な啓発活動を展開してきたという。

 しかし、日本の各NGOは実効性に疑問を投げかけている。例えば、これまで法務省が作った啓発冊子には、韓国・朝鮮人やアイヌなどの民族差別に真っ正面から言及したものがないからだ。

 同報告書は、在日韓国・朝鮮人が差別や偏見を恐れるあまり日本名を使用している事例についても、「被害者の救済に関する施策等の充実に努め」、「引き続き各省庁において関係機関や団体などに対する指導を行っていく」としている。

 これについても各NGOは具体的に反論している。現実には「日本的氏名への変更の圧力」は依然としてあるからだ。在日韓国・朝鮮人が本名で就職活動の際、「日本名は持っていないのか」「通名を使ってもらわないと採用は無理」といわれるケースはいまでも珍しいことではない。なにより、一九八五年の国籍法、戸籍法改正までは日本国籍取得希望者十七万人のほとんどが民族名を放棄させられた。こうした行政指導による民族名の放棄は人種差別撤廃条約第一条三項、第二条一項(a)、(c)に抵触するといわれている。

 日本政府は九八年九月十八日、「帰化後の氏名については、日本人らしい名を使用するよう指導していた時期もあったが、昭和五十八年(一九八三年)からそのような指導を行わないこととした」(竹村泰子参議院議員の国会質問趣意書に対する小淵恵三内閣総理大臣答弁書)と述べている。ただし、こうした指導変更を行政の窓口に文書で通知した形跡は確認されていない。

 各NGOは反差別国際運動日本委員会の呼びかけで昨年十二月から情報交換会を重ねてきた。今秋までに在日韓国・朝鮮人問題のほかアイヌ民族、移住労働者、被差別部落などで英文の詳細なカウンターレポートを作成、国連事務局に提出する。


人種差別撤廃条約

 一九六五年十二月二十一日の国連総会で採択され、六九年一月四日に発効した人権条約。同条約で規定する「人種差別」とは人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう(第1条第1項)。国籍の有無という法的地位に基づく異なる取り扱いにあたらない限り、在日韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人も条約の適用対象としている。

 現在、日本を含む百五十五カ国が締約している。締約国はこの条約の効力が生じる時から一年以内に、その後は二年ごとに条約の諸規定の実現のためにとった立法上、司法上、行政上その他の措置に関する報告を国連事務総長に提出する義務を負う。

 日本政府の第一回報告書は一九九九年末に国内手続きを終え提出された。

(2000.6.28 民団新聞)



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