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「地方選挙権法案」成立めざし

対談・金宰淑団長−冬柴鐵三議員



金宰淑・民団中央団長

 民団は、永住外国人への地方参政権付与を求めて80年代後半から運動をスタートさせ、94年には最優先課題として取り組んできた。95年2月の「永住者等に地方自治体選挙権を付与することは憲法上禁止されているものではない」という最高裁判所の判決を追い風に、これまでに多くの自治体が国に対して永住外国人への地方選挙権付与を求める意見書を採択している。紆余曲折はありながらも、今年7月5日、地方選挙権法案が国会に再上程され、秋の臨時国会での採決をめざしている。97年に法案を起草した公明党の冬柴鐵三幹事長と、辛容祥前執行部以来、運動を押し進めてきた民団の金宰淑中央本部団長に、実現間近の「地方参政権」について語ってもらった。


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付与こそ日本の国際化の証
秋の臨時国会で成立めざす

 冬柴 地方選挙権付与という法律には、非常に大きな意味がある。あと数カ月で終わる20世紀は、第一次、二次大戦という2度の戦争で人類に耐え難い悲哀を与えた。その中で、2000年を超える長い歴史を持った一衣帯水の国として日本と韓国がある。

 日本の古事記、日本書紀によれば、西暦285年に百済の儒学者・王仁博士によって儒教や漢字など先進文化を惜しみなく伝えてくれた大恩ある国が韓国だ。

 このような悠久の歴史の中で日韓の交流が続けられてきた。

 ところが20世紀に日本の中で軍国主義が台頭し、日韓併合が行われた。数10年にわたって日本が韓半島に耐え難い苦痛を与えた歴史を重く受け止め、忘れてはならない。

 このような歴史を考えた時、20世紀の清算をしなければならないし、古代から育まれてきた日韓の交流を取り戻さなくてはならない。日本に60数万人が居住し続け、4世が2万人を超えている在日韓国人の歴史を解き明かせば、究極は日韓併合に起源する。では過去を清算し、流れを取り戻すために、今何が必要なのか。

 一方、主権者が住民であるという現在の民主主義社会は、住民が政治に参加するというのが基本理念だ。このような歴史認識と21世紀の日韓関係を考えていけば、在日韓国人に民主主義の基本である参政権が付与されなければならない。だからこそ今の時点で確立させておかなければならない問題だという認識を持っている。


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地方政治への住民参加を…冬柴
与党3党の合意今こそ履行を…金

 金 まず、法案を起草していただいた冬柴先生に謝意を申し上げたい。この運動は、6年前に本格的に始まったが、大きく進展したのは2年前の日韓・韓日議員連盟のソウル総会だった。その総会で「法制化」が決議され、これが早期立法化への追い風となったと考えている。その後、98年10月に金大中大統領が来日し、国会演説でもこの問題を後押ししてくれた。その2日前に法案が国会に上程された。

 冬柴 もう少し待ってほしいという声もあったが、金大統領がお見えになるというので、もう待つわけにはいかないと提出した。

 金 99年8月に初めて国会で審議された。今年5月に再び審議が行われ、6月に衆議院解散によって廃案になった。与党3党の「成立させる」という合意事項を早く実現して欲しい。

 冬柴 衆議院解散になって再提出の準備を進め、特別国会開始と同時に出すつもりでいた。それは空白の期間を作りたくなかったからだ。選挙当選後すぐに、公保の二党で提出した。20世紀中に決着しなければならないと言い続けてきた中で、自民党トップの中にも法案提出を容認する姿勢があった。

 金 ここで提出されなければ秋になるかと考えていたが、国会開会すぐに与党から法案が再上程されたので、大変うれしかった。また同様の法案が野党の民主党からも出され、心強く思った。最近の新聞で自民党の野中広務幹事長が、三党合意事項でもあり党議拘束をはずしてでも成立させなければならないと、強い決意を表明している。


■運動継続した民団の勝利

 冬柴 勇気ある発言であり、すばらしいこと。あと数カ月しかない20世紀に、必ず成立させなければならない。

 秋の臨時国会では、冒頭から審議に入り、二、3日の審議期間中に地方の首長や民団関係者など各界の参考人の意見を聞きながらまとめていきたい。成立すると確信している。

 長い期間を費やして運動を続けてきた民団の勝利だと思う。自らの固有文化や国籍を持ちながら日本の地域社会にとけ込んで貢献するというのが在日韓国人ののスタンスだし、その通りだと思う。民団の闘いは正しかった。

 金 在日韓国人は歴史的な背景もあるが、地域住民として共生したい、そのためには地方選挙権が必要だとはっきり打ち出してきた。選挙権は多くの在日韓国人が待ち望んでいる。

 冬柴 前回は国会閉会間際に審議に入ったが、理論的でまじめな議論が多かった。そういう意味では、多くの国民、地方自治体も付与すべきだという世論が高まる中で、国会が止めるというのは理屈に合わない話になっている。

 金 あの時、自民党も勉強している最中だという話があった。

 冬柴 すごくまじめに勉強されている。ここまで真摯に論議ができて、私は「難産」で逆に良かったと思っている。


■日本市民の認知深まった

 金 この間の参政権運動を展開することによって、日本社会の中で参政権に関してより深い認知ができたと思う。私たち同胞の中には、町内会や自治組織に参与している人も多い。しかし、選挙権がないという事実を知らない日本の方が多かった。この実態を多くの日本市民に理解してもらうことができ、運動を続けて本当に良かったと思う。

 冬柴 私自身は、選挙権付与はしごく当然だと思っている。なぜ反対するのか理解が及ばない。だが、手順や様々な意見があり、その中で多数を占めた意見を反映させることが民主主義。日本の中で様々な論議があり、賛否はあるが、落ち着くべき所に落ち着くというこの間の過程が、将来の日韓の発展にもつながる。

 金 われわれが地方選挙権を持ち、地域社会に貢献することによって地域社会の発展、ひいては日本の発展につながると考えている。地方の行政に参画していく場合、責任と義務も負わなければならない。今でも義務は負っているが、選挙権を付与することによって、より明確化される。

 永住外国人に地方選挙権を付与することが、日本が名実ともに国際化した証になる。

 冬柴 私もその点を重視している。日本の民主主義がここまで成熟したという事実を、国際社会に知らしめていくことになる。


冬柴鐵三・公明党幹事長

■自信を持ち生きられる社会を

 金 日本が開かれた、差別のない国になる一端が選挙権の付与問題だと考える。そうなってこそ、これからの2世、3世、4世が自信を持って生きていくことができる。自分に自信がもてない社会で生きていくほど辛いことはない。

 冬柴 まだ最高裁判所でも憲法解釈がされていない状況の中で、94年に永住外国人への地方選挙権問題をとりあげ、95年2月初めに国会で内閣に質問した。その月の28日に最高裁の判決が出され、力づけられて法案を起草した。私の思想としては韓国も北朝鮮も区別せずに、日本に居住する人のうちで、日本の地方政治に参画したい、共同責任を持ちたいと願う人が申請すれば付与するという構成の法律を作った。

 一律に強制的に付与するのでなく、申請者に対して付与するという構成をとっていたにもかかわらず、朝鮮総連系の反対運動が起きた。これが長引いた一つの要因とも言える。

 三党合意の中でもこの問題が論議され、朝鮮総連がそこまで反対するのであれば明確にするために前回の提出時には「『朝鮮籍』者を当分間対象から除外する」とした。しかしこれは不評で、しかも私自身の思想とも違った。今回は、基本に戻して差を設けることはしていない。

 金 苦しい選択だったと思う。しかし、朝鮮総連の傘下にいる人でも、選挙権が欲しい人はたくさん存在する。その人たちに門戸が閉ざされるのはいかがなものかと考えていたが、今回は門戸が開かれているので、大変うれしい。地方選挙権は在日同胞全体の権益を左右する問題だけに。

 冬柴 まして南北首脳会談が行われて関係が改善されている折り、分類することはよくないという一つの論拠にもなった。

 国会審議を朝鮮総連の方も聞かれていたが、あまり反対すべきではないとお考えになったのではないか。

 金 地方選挙権を付与するかどうかという論議の中で、相手国にも同様の法律があれば認めるという、相互主義の問題が持ち上がった。これに対して韓国でも在韓定住外国人に対して地方選挙権を付与する法案ができている。これはまさに韓国に欠けていた視点であり、日本での民団の運動が波及した効果だ。

 お互いに、他国にいる自国民がどのような待遇を受けているかは非常に敏感だ。在日がどのような待遇を受けているかで、韓国の日本を見る目が決まる。ひるがえって、在韓定住者の処遇いかんで各国の韓国に対する評価も決まる。

 冬柴 中国の江沢民主席とも話をしたことがあるが、歴史認識を非常に重視する。国同士の交流に当たって、歴史を正しく認識し、且つとらわれずに将来にわたった交流を進めていくことが重要だ。歴史を認識して違いは違いとして尊重しなければならない。

 したがって、日本で選挙権がほしいのならば帰化すればいいというのは、大変な暴論だ。長い歴史の中で培われた固有の歴史と祖先があり、そこから離れることを潔しとしない人の意思を押さえつけ、不利益を与えるのは21世紀には通じない思想だ。

 金 全くその通りだ。


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21世紀、新しい韓日関係のために


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W杯にシャトル便を…金
交流増で相互理解へ…冬柴

 金 新しい韓日関係を考える上で、試金石となるのが2002年のサッカー・ワールドカップ韓日共催。21世紀初頭に行われる韓日の本当の共同作業と考えている。その中で韓日両国を取り持つのが在日であり、大きな役割だと思っている。韓日と在日が一つになって成功させたい。

 冬柴 ワールドカップが共催であることがすばらしい。日韓が一体であることの一つの象徴的な行事と言える。

 金 2002年を機に、金浦と羽田の両空港を結ぶシャトル便を運行するように各方面に求めている。これは、ワールドカップ期間中だけではなくて、恒常的に韓日を結ぶ路線として求めている。「ちょっとソウルに行って来るよ、福岡に行って来るよ」という、ともに国内を移動するような感覚で韓国と日本を結んでほしい。

 共催という思いを現実化するためにも是非実現してほしい制度といえる。

 冬柴 チケットだけ買えば30分後でも飛び乗れるという状況があればいい。私もやります。

 人の往来も、今はハワイを抜いて韓国が一番多い。何百万人という人の往来を考えたときに、シャトル便は必要だ。日韓は距離的にも法律的にも一体だという時代を作らなければならない。21世紀は、日本と韓国が核になって、周辺国を含めた北東アジアが世界経済を牽引していくと思う。その意味からも日韓の協力を盤石にしていかなければならない。

 金 頻繁な交流によって相互に理解が進む。よく言われるように今では韓国の食文化が日本に浸透している。今でこそ日本の漬け物生産量の中でキムチがトップになったが、昔はニンニク臭いといわれた。一方、韓国では日本の漬け物はヌカ臭いという。これは交流が深まる中で理解し合える問題だと思う。

 冬柴 そういうことだ。今、日本人は大変好んでキムチを食べる。(笑い)

 金 カナダは複合文化で、良いものを残している。在日韓国人の役割も、日本のプラスになる働きをしたい。一時期の間違った認識を払拭すれば非常に有機的な関係が築けるだろう。

 冬柴 いいことだ。韓国が日本の大衆文化を開放したのは、より日韓が近付く大きな契機になった。互いの文化を尊重しあい、触発される中で新しい文化が生まれる。日本は単一民族ではないし、外国人は日本人口の1%を超えて150万人が居住する。その中で60万人という在日韓国人はすごい影響力がある。

 金 地方選挙権を持って、日本の地域社会に貢献すると同時に今後、より緊密な関係になる韓日関係を結ぶ架け橋として在日韓国人もがんばっていきたい。

(2000.08.15 民団新聞)



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