民団新聞 MINDAN
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鼎談・同胞の和合を求めて



 6月に平嬢で開かれた南北首脳会談は、金大中大統領と金正日国防委員長が統一問題の自主的解決など5項目の南北共同宣言に合意した。

 会談後、8・15を期した離散家族の再会や長官級会談の開催など、南北は平和定着と統一に向けて大きく動き出した。在日同胞社会でも和合と交流を推進しようと、6月15日、民団が朝鮮総連(総連)に対して、何ら条件なく虚心坦懐に話し合うことを提議した。

 総連からはいまだ正式な回答はないが、民団新聞では、南北首脳会談の成功と今後の在日同胞社会の和合について、かつて総連に所属し、朝鮮大学の教員を務めた李進煕・和光大学名誉教授、現在も総連に所属する〓大聲・滋賀県立大学教授、総連との窓口を担当する民団中央本部の朴性祐・平和統一推進委員会委員長の3人に鼎談をしてもらった。


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◆鼎談出席者
朴性祐氏(民団中央・平和統一推進委員長)
李進煕氏(和光大学名誉教授)
鄭大聲氏(滋賀県立大学教授)

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朴性祐氏
(民団中央・平和統一推進委員長)

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「太陽政策」を在日同胞社会でも

▼朴 
南北首脳会談をどうご覧になりましたか。


◎李 
両首脳が手を握るほどに時代は変わったという印象ですね。北は南をアメリカの傀儡と規定し、対話の相手として見てこなかったのに急に大転換を図った。同族の韓国との間で関係を改善しなければ、一つの前進もないということがようやくわかってきたらしい。


◇鄭 
首脳会談の意義は非常に大きいと思う。過去72年には7・4共同声明があったけれど、今回は両首脳が直接会って握手を交わし、共同宣言をした。しかもそれはマスコミ通じて全世界に流れ、南北の人たちもそれを観た。これから少々紆余曲折があるかもしれないが、後には戻れないし、戻ってはいけない。


▼朴 
20世紀の幕を閉じるこの段階で、歴史に刻まれる首脳会談の意義を生かさなくてはいけない。在外国民の立場を積極的に活用し、祖国統一に寄与する道を探すべきだと思う。辛い20世紀の恨(ハン)が消え去るような契機になってほしいと、祈るような気持ちだ。


◎李 
注目すべきは、KBSの「追跡60分」で韓国籍の丁讃宇と朝鮮籍の金洪才のコンサート「イムジン河」の演奏を取りあげ、朝鮮大学まで取材に行き、大学の方でも若い教員が応対していた。韓国に放送される番組のなかで、在日同胞の対話を重視していく。韓国のジャーナリストは前向きでどんどん先に進んでいっていると感じた。


▼朴 
在日同胞が民族の悲願である統一に向けて和合と交流を進めていけば、五百五十万の海外同胞にインパクトを与えることができる。いろんな政治の壁や障害で息詰まることもあるが、少々のことは話し合いで解決して、二度と失望はないように、在外の力を結集しなければならない。


◇鄭 
首脳会談によって在日は皆がホッとした、光が差したという実感だろう。民団系、総連系のいろんな単位で仲良くしているという話を聞いているが、私の故郷、慶尚南道咸安郡の郷友会からも連絡をもらった。今まで一度も行ったことはないが、今回は9月に民団、総連関係なく咸安に行くという。それぞれ自分の思いを出していけば、自然にそういう流れになるのではないかと思う。


▼朴 
今年の光復節では離散家族が再会し、いずれ金国防委員長のソウル訪問が実現したら在日社会の雪解けも加速化すると思うが。


◎李 
新聞によると、離散家族を200人ずつ選んで双方が連絡したところ、北の人で韓国内で会いたいという人が198人わかった。北では南から照会したら138人がわかったという。みんな七〇代、八〇代の人だ。これほど胸の痛い話がどこにありますか。


▼朴 
首脳会談ではソウルも平壌も泣いた。それを観た時、民族の感性は理を越えるものだと思った。同胞一人ひとりが計り知れない悩みと関心を持っている。積もり積もった悲願は誰も妨げられない。


◎李 
KBSの「追跡六十分」では、大阪のある総連系学校で行われた祝賀会を映していた。私の顔見知りもいて、「韓国に行ったことがあるか」と取材陣が聞くと、「行ったことはない。いろんな事情があって…」と言葉をにごしていたが、両首脳の対話だけで総連系同胞があれだけ盛り上がった。トップが動いてくれれば、何とか希望が持てるという切実な気持ちがある。


▼朴 
2002年のワールドカップを前にして、韓国に行こうという総連同胞、とりわけ若い世代が増えていると聞いている。


◇鄭 
いちいち上からの手順を踏むという発想をやめて、自主的な判断で動いてほしい。あちこちで訪韓の実績ができたら逆に総連に訪韓を認めるように提案していく。総連も政策を出して同胞の人心をつかみ、同胞の支持を受けるようにしてほしいと思う。今、総連の同胞が一番望んでいることは、自由に韓国に行くということで、ワールドカップを前にその気持ちを抑えきれない。この際、適格な方針としてわれわれ独自の判断と精神にのっとって在日の和合のために韓国に行きましょうと、そういう方針が出ることを期待する。


李進煕氏
(和光大学名誉教授)

▼朴 
両団体とも冷戦構造の中にあり、理性ではそれを超越しようと言っても硬直した部分があった。韓国に行きたい、北に行きたいという故郷訪問事業を効率的に推進していくには、民団と総連が協調することが大事だ。


◎李 
総連は簡単には動かないような気がする。民族の痛みを話し合おうというのは、上からの指示がないと動けない硬直した組織になって久しい。総連の扉をこじ開けるには、我慢強い姿勢で交渉に臨まなければならないし、もう一つは下からの突き上げがなくてはならないという気がする。

 去年、東京の朝鮮高校の創立何十周年かの行事があったが、政治的な色彩は一切なく、ただ昔の仲間に会えるという親睦会的な催しだった。そうでないと人を集められない状況だ。


▼朴 
総連中央には対話のテーブルについてほしい。同胞の誰もが和合を望んでいるのに歩み寄れないというのがもどかしい。


◇鄭 
首脳会談の意義と実質的に今進められているいろんな交流を各自がしっかり認識する必要がある。時代は変わったという認識をお互いが持ってほしい。この座談会に出席するのに「自分の判断で出る」と、総連組織の人間にはっきり伝えた。「南はもう金大中時代で、しかも首脳会談も開かれ、お互いに和合しようという時代になった。われわれ独自で判断していいじゃないか」と。いろんな積み重ねの中で実績をつくっていく。実績をつくっていったら、逆に組織も大衆の中に根をおろしている限り、それを先取りし、要求をくみ上げていく。


◎李 
平山郁夫画伯が北の高句麗公壁画を世界遺産にしようと動いている。ありがたい話で、私は歴史学者の立場から開城を世界の文化遺産にして観光特別区にするよう提案したい。そうすれば、金剛山だけでなく、高麗500年の都、開城はソウルからいくらも距離がないし、韓国と合弁でホテルをつくる。いくつも王陵があるが、最近の北の報道を見れば、太祖王建の墓の修復をしている。しかも郊外に寺跡があり、それがほとんど手付かずのまま残っている。そこを観光特区にして、ソウルから修学旅行に行けるようにする。日本からも観光客が行けるようにすれば、それが南北往来の一つの手だてになる。


■□
南北首脳会談成功に感激
金正日国防委員長の早期訪韓期待

▼朴 
南北関係進展の鍵を握る金正日国防委員長の訪韓はいつごろだろうか。


◇鄭 
早い時期だと思う。なぜなら金大中大統領の任期があと2年もない。だから国防委員長が遅くに韓国に行っても意味がないし、実績を積み重ねるためには、早い方がいいという政治的判断はすることができると思う。


◎李 
新聞報道によると、サハリンの天然ガスをウラジオストクまで持ってくる千五百キロメートルのパイプラインの敷設工事が始まっている。それを北朝鮮を通って韓国まで持ってくる。韓国で今使っている天然ガスと石油は中近東から持ってきているが、もっと近くからクリーンなエネルギーをロシアから北朝鮮を通って持ってきた方がはるかに安上がりだ。それができると北朝鮮は膨大な通過料を取れる。経済的な利益、民族の利益という側面から考えていきたい。そのためにも委員長が早くソウルに来た方がいい。


▼朴 
平和が定着すると、希望の絵が描けるが、北も南も同族相殺の戦争で犠牲者を出し、半世紀も憎悪した仲だ。感激が過ぎればいろんな陰りが見えてくるからこそ早く来てほしい。


◇鄭 
1回の首脳会談の成功で日本の総理が直接対話したいと言うぐらいだから、委員長の訪韓は、もう一つインパクトになる。周辺はこの流れに遅れまいと焦りが生じる。その効果を共和国がどう見ているか。一気に自分が訪問することによって、もう一つのインパクトが出た時に相当な影響と効果が出ると思う。


▼朴 
在日は本国だけ縛られていてはダメだ。本国が動くから動くという縦の線だけを考える閉塞性から脱皮しなくてはならない。


◎李 
首脳会談は日本の政界に非常に大きな影響を与えていることに注目したい。日本は今まで食糧援助を日朝交渉の取引材料にしていた。また、アメリカに次ぐ優れた軍艦を持ち、中国よりもはるかに破壊力が大きい軍事力を持ちながら、北のテポドンを持ち出して迎撃ミサイルを開発しようとしている。朝鮮が分裂し、北が日本に脅威を与え続ければ、日本に有利という判断をしてきた。それが首脳会談のおかげでできなくなった。

 もう一つの大切なことは、北がこれまでの冷戦構造から脱しきれなくて非常な危機感を持っていたことだ。西海の漁船の銃撃戦も一つの例で、いろいろやってみると、韓国との差がどうにもならないことがわかってきた。韓国も北との対決ではなく、「太陽政策」を取ったことに意義がある。北の権力は保障する、倒さないという安全保障が得られれば、北は対話に出てくる。それが今回の糸口になった。同じように総連との話し合いが総連組織を弱めるためではないこと、同じ民族として何ができるのかという面で話し合い、誠意を尽くすべきだ。


◇鄭 
総連は路線転換のような決断をして手を携えて在日をいかに生きていくかを考える。例えば、民族教育問題では、総連は教育ネットワークを持っている。民団はそれが小さい。在日の子どもたちがどんどん日本の学校に行って、総連系の学校も数が減っている。民族教育の中身を和合と平和のための教育にして、民族性を保ちながら日本で住んでいける教育にエネルギーの結集がほしい。


▼朴 
統一の前に朝日関係が正常化されるのではないか。それと相まって平和路線、南北間に平和が定着することに確信が持てるのだったら、在日の民族教育の問題は大きく様変わりすると思う。朝鮮学校が存在する事実を認めて、いかに活用するかということも研究課題になる。


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地方から交流盛上げへ…李
スポーツで共同応援を…鄭
我慢強く対話呼びかけ…朴


◎李 
総連に業績があるとすれば民族教育だ。総連の民族学校をつぶしてはならないが、今や生徒がいなくて統廃合しても維持できない状態になっている。同胞の意見を聞いていかないと児童・生徒が来なくなってしまう。東京の学校で校舎の建て直しに、金は出すが総連の指示は受けないと言っている卒業生が多い。


▼朴 
教科書のカリキュラムを変えろという異議も出された。南北が将来を見据えて教科書の問題をともに検討する委員会を構成すると同じように、在日も一緒に教育内容や教師採用などを話し合ってもいい。

 北の食糧難解決に向けて民団と総連が共同対処する問題や総連同胞の戸籍整理の便宜を民団が図る問題についてはどうか。総連中央が話し合いにさえ応じれば、海外550万人の同胞に働きかけて食糧支援ができる。経済問題から海外同胞の誠意を見せたい。


◇鄭 
戸籍の問題で言うと、私の叔父が軍属で引っ張られたが、われわれが遺族であるという証明を民団にかけあったらすぐにできた。民団で戸籍が調べられるということを知らない総連同胞が多いと思う。自分の亡くなった親の相続の問題で困っている人もいる。


◎李 
1940年以降に生まれた人でこういうケースがある。当時は日本の帝国主義の末期で、故郷に出生届をしていないか、できなかったケースが多い。そして、戦後、総連に加わったため、両親の戸籍はあるけど、韓国に本人の籍がない60代の人もいる。日本では外国人登録上で父の子になっているが、両親がすでに死んでいる場合は、宙に浮いてしまう。戸籍の問題は切実ですよ。


◇鄭 
そういう世代がすでに高齢になっている。亡くなっているのに、韓国の土地の名義がそのままその人になっていることもある。総連同胞が喜ぶことをしてあげればいいと思う。


◎李 
ただ、そういう便宜を受けたら韓国籍に切り替えなくてはならないのではないか、という心配が総連系同胞の中にはあるから条件は一切つけず、戸籍の整理だけということを前面に出してやるべきだ。


鄭大聲氏
(滋賀県立大学教授)

▼朴 
われわれは総連同胞の手助けをしたい。今月下旬に大阪で今年度の韓国の高校サッカー代表チームと大阪の代表チーム、そして昨年度の代表チームの朝鮮学校が試合をする。2002年のワールドカップでも全国の朝鮮学校とも連携し、活用すればいいという意見が若い世代から出されている。


◎李 
功名心からでなく、それこそ「太陽政策」を日本でも実行に移す。時間がかかっても支部や地方からどんどん盛り上げていき、在日全体を包み込んでいくことが大事だ。


◇鄭 
食糧支援や戸籍整理、スポーツの共同応援など、総連と民団が一緒にやれることは一杯ある。支部が決めて実行することをもう誰も止められない。


▼朴 
民団と総連がいい関係を築き、われわれの子孫に誇れる在日同胞社会のために汗を流したい。


地方参政権獲得運動とのからみ
権益擁護、民族性保持に必要


▼朴 
民団と総連の間で同胞和合を進めるのに、地方参政権がネックになるのだろうか。


◇鄭 
権利を与えて行使は本人の選択に任せるのは妥当だと思う。総連の幹部らは参政権に否定的だが、一般の同胞は「税金を払っているのに、権利がないのはおかしい」と思っている。参政権反対は組織の方針であって、総連同胞全部が同調するものではない。


▼朴 
朝鮮籍を法案の対象に含めるのに民団は同胞和合の観点から努力してきた。参政権の行使は、義務ではなくて権利であって、イヤなら本人が投票を拒否できる。民団をねじ伏せて参政権を取り下げさせようとする総連の発想自体が冷戦構造の産物だ。総連同胞を一くくりにして、総連の方針についてこないとダメだというのはおかしい。


◎李 
朝鮮の同胞が約15万と言われているが、その半数近くは総連の指示で動かなくなっている状況ですから、参政権が総連組織の弱体化に追い討ちをかけているという危機感が総連にはあるでしょう。

 民団も総連も海外に居住する同胞の権利を守るための代表であって、思想を押し付ける団体ではいけないという時代に来ている。行使するか、しないかは別にして、参政権は在日が一票持っているという重さを介護問題やいろんな問題が出た時に示す、同胞の権益全部に響いてくるきわめて重要な問題だ。これまでの無権利状態からまず地方参政権を獲得して、われわれの生活に結びついている問題を政治に反映すべきですよ。


▼朴 
民団は生活者団体で総連を吸収しようという考えはない。民団も総連も第一義には、在日同胞の権益を守る団体として存在する。力のない権利主張は、どうしてもお願いになってしまう。例えば、私の家の前に廃棄物の処理場があっても反対もできない。在日同胞は目の前の問題であっても住民投票にすら参画できない。権益を守るためには、パワーを持つべきだ。


◇鄭 
参政権を持つことによって、在日同胞の無力化に歯止めがかかると思う。われわれはここで生きていく存在で、生活する場所で自分の権利をどのように主張するのかということになれば、民族性を保ち、意思を反映するという意味で何らかの形で政治に関わることが必要になってくる。それが確保されたら、逆に誇りを持つ人も出てくるかもしれない。何の権利もないから帰化しようかという人が、権利を持つことで帰化しなくなるかもしれない。


▼朴 
総連は海外公民という立場で、いずれ祖国に帰国するという前提があるが、その幻想をいつまで持ち続けるのか。

(2000.08.15 民団新聞)



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