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民族学校振興を考える

教育者座談会



■座談会出席者■
洪性豪さん




▼洪性豪さん(東京韓国学校教頭、61歳)

 東京韓国学校1期生。大学、大学院を卒業後、後輩を育てたいとの決意で時間講師として勤務、当時の理事長から勧められ教員になった。教員生活35年になる。


姜駒錫さん




▼姜駒錫さん(白頭学院建国学校教頭、54歳)

 建国学校出身。高校の恩師でもあった故李セキ鍾校長から理科の講師として赴任するよう要請された。教員生活は26年になる。


韓清光さん




▼韓清光さん(金剛学園幼・小学校教頭、58歳)

 大学時代、朝総連系学生たちとの闘争に参加するなかで金剛学園卒業生として後輩たちを教えてみたいと決意、1965年から母校での教員生活に入った。




金五子さん



▼金五子さん(金剛学園英語教師、49歳)

 金剛学園に勤務して今年で11年。日本の学校で学び、民族問題では高校生時代から悩んだ。韓国に留学したことから教師を志し金剛学園で勤務についた。


李龍宰さん




▼李龍宰さん(京都韓国学園教師、46歳)

 13年前、韓国から日本の大学に留学。留学先で在日同胞社会の現状を知り民族学校教員を志す。帰国後、大学で韓国語の修士資格を取得し、日本に赴任した。


鄭炳采さん




▼鄭炳采さん(同胞保護者代表、49歳)

 子ども3人そろって建国中学に進んだ。うち2人は現在も在学中。現在は民団大阪府本部の文教部副部長を務めている。


▽司会=鄭夢周・民団中央本部文教局長


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■21世紀同胞社会の担い手排出へ

 生徒数漸減に悩んできた民族学校でここ数年、在日同胞側のニーズに合わせた様々な内部改革努力が進められている。しかし、在日同胞社会に根強く残る民族学校へのマイナスのイメージを払しょくするまでには至っていないようだ。そこで民族学校四校の現場で長年奮闘してきた5人の教員に参加してもらい、各学校が抱える課題にどう取り組んできたのか、21世紀の在日同胞社会を担う人材育成に向けてどのような将来像を提示しようとしているのかを同胞父母の代表を交えて語ってもらった。


■□
多様化するニーズ

■司会■
在日同胞社会の明日を考えたとき、民族学校という存在はこれからますます大きな位置を占めていくものと考えられます。にもかかわらず、在日同胞社会に民族学校の存在そのものと、その取り組みの姿が正しく伝わっていないという現実があります。きょうは民族学校四校を代表して5人の先生にお集まりいただきました。在日同胞父母の代表も交えて、民族学校の置かれた現状と課題について語っていただきます。


◆姜◆
まず、民族学校に対するイメージですね。あまりにも民族学校のことを知らなさすぎる。例えば“学力が低い”“ガラが悪い”“設備が悪い”といった民族学校に対する否定的な批判をよく聞くのです。

 では、なぜ、設備が悪いのか。はっきりいって財政の問題です。白頭学院は1条校ですから、日本文部省から私学としての補助を受ける権利があったはずなんですが、民族学校だからといって補助金を支給してくれなかった時代があったのです。従って当時、設備投資ができない状態が続いたときがありました。同胞側の期待にどう応えるか、それ以前にもともとハンディを背負った運営を強いられてきたんです。こういう事実をまず知ってほしいと思います。


◆韓◆
金剛学園では狭い敷地内に幼稚園から高校まであるんですね。うちの学校に子どもを入れようかと訪ねた人から、「これ、学校?」「グラウンド、どこか別にあるんじゃないの」と過去によく言われました。


■司会■
保護者の立場から民族学校に期待する声があると思うのですが。


◆鄭◆
韓国系の民族学校に通う子は、在日の子どもと駐日の子どもを比較しても、在日の子が減っているんです。これだけでも在日の親が民族学校に行かしていないという現実ははっきりしていると思うんです。そのことをどうとらえるべきなのか。


■少数精鋭で進路保障、「民族力」伸長の特別コースも

◆洪◆
韓日会談が始まる前は国へ帰ることが前提で、まず言葉を知らなければいけないと、東京韓国学校にも多くの在日同胞が来ていました。会談が終わって、自分たちが日本に住むという考えを持つようになり、それならば、日本でいい大学に入らないといけないと考えるようになったと思うのです。


◆姜◆
民族学校の生徒の人数が減る原因ははっきりしていると思います。在日同胞のニーズに応えていないからです。私は1958年に建国中学校に入学しました。当時、親父から「建国へ行って韓国語を勉強せい」といわれ、その一言で一時間半かけて通った。そういう時代だったんです。いまはそれだけでは生徒が来てくれない。中学生の保護者からは「ええ大学に入れてくれ。できれば医学部へ入れてくれ」。これなんですよ。

 在日同胞に民族教育への思いはある。あるから民族学校へ入れるんですよ。でも、やっぱりなんだかんだいっても大学進学があり、その先は就職がある。日本社会で生きていかなければあきませんから。単純に考えれば、その部分で民族学校が信頼されていないから結局、日本の学校へ行くわけです。

 もうひとつ、レベルの選定に難しさがあるのです。民族学校は全部ではないんですが、駆け込み寺的なところになっているんですね。日本の学校に行ってだめなら民族学校やと。でもこれは逆だろうと。そういう認識はこれからはぜひ改めてもらいたいと願っています。


◆李◆
ウリ学校では、小学校6年生の名簿をもって生徒募集のための家庭訪問をするんです。下手な日本語を使って「お願いします」とね。そうしたら「要らん」と、窓も開けてくれない。話も聞いてくれないことにショックでした。悔しい思いをしたことは多々あります。

 この2年、生徒数が増えているというのは、高野連加盟でマスコミに取り上げられるようになったことが大きい。一時は高校を閉鎖するかどうかまで追い込まれたこともありましたが、いまは野球部を目指して大阪をはじめ北海道、鳥取などからも入学希望者が来ています。


◆金◆
父兄のニーズはある意味で学校のレベルだと思うんですね。受験を目指す生徒には金剛における主要四教科(国・英・数・日)の七時間目授業を実施したり、補習授業をして学力向上のために努力しています。コンピューターを導入した授業も準備中です。


◆姜◆
先ほど医学部の話をしましたが、保護者のニーズは多様化していて、みんながみんな医学部へ行くというわけではありません。というわけで、2年前から「韓国文化特別コース」を開設しました。文部省の制約とかいろいろありまして、ウリマルの時間、週三単位しかとれないんですが、これをなんとかやりくりして六単位。このうちの半分は会話中心です。担任には本国から来ている先生をあてました。とにかく、“キムチ漬け”にする。キャッチフレーズは「教室はそのままソウル」です。今年から韓国へ語学研修に行ってもらっています。慶煕大の協力を得て生徒にあったカリキュラムをわざわざつくってもらいました。

 それと、専門の講師をボランティアで一般から募って「オープンスクール」を昨年から始めました。身近なアボジ、オモニに先生をお願いしています。


◆鄭◆
団員さんの民団離れも指摘されている現状で、民族学校の生徒が減っていくのは一つの流れだとは思うんです。93年から99年にかけて民族学校四校で330人が減っている。しかし、この1年間みますと5人の減少にとどまっています。これは民団も含めて各学校が危機意識を持って取り組んだ結果だと思います。

 ただ、これだけは考えていただきたい。民族学校に6年間、はなはだしくは12年間行かせても簡単な会話すらできない生徒がいる。それも一人や二人ではない。このような現状を見て、親が民族学校としての認識を持てるのかどうか。ミッションスクールやアメリカンスクールに6年間子どもを通わせて、英語をしゃべれなかったらその親が納得しますか。

 朝鮮学校に問題もありますが、ウリマルはできるし民族に対してそれなりに自信を持って卒業する。民族学校を見るとき、韓国語ができるかどうかが一つの価値基準になるとは思うんですよ。


◆洪◆
民族学校に入れて韓国語ができなければだめだというご指摘ですが、東京韓学は違います。初等部では日語以外の授業は全部韓国語ですから、韓国語を習うための条件は十分整っているんです。在日同胞のお子さんが来て6年いたら我々のような方言でなくソウルの言葉で十分話ができる。そういう段階まで来ているんです。そのために本国から来ている先生をあてています。

 中学校から転入して韓国語が不十分なお子さんについては、9月から韓国語のできる先生に一人ずつ預けるといった方法を採るようにしています。教科書を一つにして、正規の授業時間以外に会話の指導をしてもらう。一カ月に1回はテストしてどの先生が一生懸命やっているかを調べますよ。


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■□
教員から率先垂範

◆韓◆
過去、本校で高校の教師をやっていたとき、市外教の先生にこういうこと言われたんです。「在日の保護者の方は、日本の学校には行かしてもらっているという意識があり、民族学校には行かしてやっているという意識があるようだ」と。

 我々の学校、先ほど駆け込み寺という言葉もありましたが、「せっかく受けさしてやっているのに」という、そういう意識が在日の保護者の方にはあるのではないか。だから我々が一生懸命やっても、色めがねで見られていると思います。これは必ず是正される必要があります。

 確かに保護者の方から言われました。民族学校に入れてもウリマルができない。そんなときはこう言い訳します。「1条校としての認可をもらっている以上は、日本の教科を基本的にすべてこなさなければならない。そのうえに、ゆとりの時間を使ってクゴを学びウリナラの歴史を学んでいるのです。いわば、生徒は負担を背負い頑張っているのです。


◆鄭◆
苦言を呈させていただきますが、教師の韓国語能力ですよ。数学や体育担当の在日同胞教師が入った途端に「どうして韓国語できないのか」と言われればつらいですわ。でも5年、10年と民族学校におれば、「どうしてしゃべれないのですか」となりますよ。これは教師どうし絶対指摘し合わないとだめだと思うんです。少なくとも教師間の会話はウリマルでしないと。それもできないで子どもにいくら言っても難しいと思います。韓国語能力試験がありますが、生徒に受けるよう指導する前にまず教師自ら受けるべきだと思います。そうして努力した教師には給料を上げるなどして正当に評価してあげてほしい。


■韓国語能力試験、全員受験

◆韓◆
学校の中での生活用語は日本語ですから、授業はどうしても日本語中心。それにまた教員採用の際、どうしても資格がないといけないということで、採用にあたってウリマルができるか否かは二の次なんです。まず免許ありきなんです。だからといって学校のなかで教員がウリマルできなくてもあたりまえ、というわけでは決してありません。


◆金◆
金剛は今年、教師全員が韓国語能力試験を受けます。朝礼の時間には全員クゴの勉強をしています。チューター(教師)はベテランの主任の先生を含め、持ち回りで担当しています。授業もバイリンガルでやっています。


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■□
21世紀のビジョン

■司会■
四校の先生方からひととおり現状と各校の抱えている課題、それに対する取り組みについてお話がありました。これからは21世紀を前にしてビジョンをどう描いているのかについて語っていただきたいと思います。


◆姜◆
在日同胞保護者からは幼・小・中・高校のいっときだけでも民族学校に入れたいという声を聞きますが、子どもの発達段階を考えたとき、民族的な習慣や言葉はできれば幼稚園、せめて小学校低学年で終えてしまわなければだめなんですね。中学校では率直にいって遅いくらいです。

 今年の教育者研究大会では「地球化」という言葉が出てきましたが、私にはピンとこない。まずはしっかりした韓国人をつくることが先だと思う。


◆李◆
有名大学進学を目指す子弟のために開設した特進クラスを盛り上げないといけない。各種学校ですから教員免許に縛られずにすみます。著名な塾から先生を四、5人招いて教えてもらっています。英語の担当先生はハーバード大学出身で15年間米国で生活した先生です。コンピューターの授業では専門学校から講師を呼びました。野球にしても徹底を期して来年から本国から投手を含めた選手を何人か招待留学生として受け入れ、実力向上を目指します。監督が本国に行って交渉中です。


◆洪◆
進学は少数精鋭できちんとやります。英語と韓国語については、必ず会話ができるようにしないといけない。それにコンピューターです。いずれ基本的な韓国語の会話プログラムを作って、民族学校四校の生徒がインターネットを通じて交流できたらと考えています。


■英語やPC教育強化

◆金◆
英語では、来年度からネィティブスピーカーに来ていただくことを予定しています。コンピューターを導入した授業も準備しています。全員にアドレスを持たせて、インターネットを使えるようにしていきます。将来的には住民向けに韓国語や韓国料理の講習会の開催なども念頭に入れています。


◆鄭◆
いまは民族学校だから子どもを行かそうという時代ではないんですね。民族学校としての特色に加えてプラスなにがあるかということが問われているんだろうと思います。

 それがなにかというと中学、高校クラスでは学力なんです。少数精鋭でいいから、できる子に対しては進学実績を上げていく。もう一つは特技。スポーツでも英語でもコンピューターでもよい。指導者には韓国国内も視野に入れてプロを招いてあげてほしい。生徒の才能を伸ばし、それで就職も保障してあげる。

 最後に“民族力”です。民族に関係あることで特色を持つ。そのヒントは建国の「韓国文化特別コース」にあります。例えば、そのコースに入ったら韓国語を聞き取れるようになると評判になったり、直接韓国の大学に入学できるようにしたり、民族楽器や踊りでもセミプロ級の腕前になるとか、そこまで特化できたら本物。

 在日同胞の九割は日本の学校に通っていますが、実際に在日同胞社会を担っているのは民族学校出身者のほうが多いんです。民団役職員は子どもを小・中・高どこでもいいからまず民族学校に入れてほしい。学校関係者はもちろんです。民族学校に入れてみて初めてその良さが見えてくることも多いんです。


■司会■
本日は活発な討論をいただきました。21世紀の在日同胞社会の担い手を民族学校からおおいに輩出していただきたいとの思いでいっぱいです。長時間ありがとうございました。

(2000.08.15 民団新聞)



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