民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
在日へのメッセージ

氷室興一(日本テレビ中国総局)



■□
成熟しつつある韓国社会

 「久し振りなんですから、もっと身を寄せたらどうですか!」百組の離散家族が上げる「アイゴー」の声をかき消すような野太い声が上がった。何事かと思ってのぞいて見ると、韓国メディアのカメラマンが「感激の再会」を撮影すべく"振り付け"をしていた。感激の対面から漸く落ち着き、それでも手は握ったままで言葉を交わしていた離散家族たち。戸惑った表情を見せながらも並んでカメラに収まった。

 こうした「過剰演出」は「家族ごとの面会」でも見られた。持ち寄った土産品を開封するよう強い調子で勧め、数時間に限られた家族きりの時間にインタビューを始める輩までいた。通常、こうした様子はVTR編集の際にカットされるのだが、今回は放送を急ぐ各テレビ局が編集をせずに映像素材をそのまま放送したため、「不都合な部分」まで逐一ながされることになった。

 すぐに視聴者から「せっかくの再会を邪魔するな」という抗議の電話が各局に殺到、各局の現場責任者が血相を変えてカメラマンの尻を叩いて回り「過剰演出」は漸く沈静化した。

 こうした韓国の「熱い」部分とは異なる、冷静な面も多く見られた。離散家族ばかりのテレビ放送に「他にも問題がたくさんあるのにねえ」と呆れるタクシーの運転手たち。ソウル放送の記者の一人は「これから先が大変ですからねえ」と淡々と話していた。半世紀ぶりの再会に目頭を熱くしていたのも実は日本人記者が多かったように見えた。

 韓国社会に広がる「落ち着き」。運転マナーこそ相変わらず凄まじいが、地下鉄に乗っても以前のようにジロジロと人を見る人たちはいないし、街なかを歩いても肩をぶつけられ不愉快な思いをすることは少なくなった。

 IMF体制を経た「停滞期」の特徴か。あるいは中国で暮らし始めた私の感覚が少々狂ったのか。誤解を恐れずに言えば「社会が成熟しつつある」という印象を受けた。テレビではなかなか伝えにくい緩やかな変化が韓国で進んでいるようだ。

(2000.09.20 民団新聞)



この号のインデックスページへBackNumberインデックスページへ


民団に対するお問い合わせはこちらへ