民団新聞 MINDAN
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親から子、孫に語り継ぐ渡日史

千葉のオモニが"渡日史"発刊



著書を手にする安順伊さん
(千葉市内の自宅で)

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「日本自分史大賞」に入選
6年がかり、亡き両親の辛苦しのぶ

 【千葉】読み書きの不自由な在日同胞ハルモニのつづった両親の渡日史『海をわたった家族』が、第4回「私の物語・日本自分史大賞」に入選した。表彰式は7日、愛知県春日井市の「春日井文芸館」(日本自分史センター)で行われる。

 著者は、千葉市内で独り暮らしの生活を送る安順伊さん(68)。安さんが北海道の炭鉱に徴用された父親の後を追って母親とともに渡日したのは、まだ7歳の時だった。

 父親は雪の降りしきる早朝でも防寒着をつけず、生命の危険と隣り合わせの炭鉱に毎日、向かった。そして、生活のため八百屋の店先に捨てられた野菜くずを拾ってきてキムチにした母親。

 両親の辛苦を目の当たりにした安さんは、幼心に「なぜ日本に来たのか。朝鮮にいればいいのに」と不思議でならなかったという。

 こうした疑問は解放後、朝鮮人連盟のつくった学校で祖国の歴史を学ぶうちに氷解した。安さんは驚きと憤りに身を震わせながら話を聞いていた。小学生のとき、クラスメートから「朝鮮に帰れ」と心ない暴言を浴びせられたことがいまさらのように脳裏によみがえりもした。安さんは歴史の事実を正しく伝えなければと無意識のうちに思うようになっていた。

 両親が他界し、夫にも先立たれて独り身になった安さんは、友人に勧められて7年前から千葉市内の朝日カルチャーセンター「エッセイ入門教室」に通うようになった。

 ここでは一週間に1回、講師の提示した課題に従い作品を提出するようになっていた。しかし、いじめと差別に耐えられず小学校を途中退学した安さんには難しい漢字が読めない。ひらがな表記も「小学生並み」と自認している。それでも書きたい一心で初めて日本語の辞書を購入、コツコツ第一作「父をたずねて日本へ」を書き上げた。

 講師(当時)の宮下展夫さんは様々な苦難のなかで生きてきた安さんの体験に注目、「本にしたらいい」と励ました。自信を得た安さんは、辛い過去をただのうらみやつらみに終わらせず、さらりとした口調で書いていった。作品は教室仲間の共感を呼び、仲間らが申し出て安さんの出版を支えてくれた。

 著書は昨年8月に自費出版され、国立国会図書館に文化財として保存されている。一般の書店には置いていないため、いまでも人づてに注文が舞い込んできている。安さんは「子どもたちに語り継ぐ歴史を残すことができて、ほっとしている。日本人にもたくさんの人に読んでほしい」と話している。

 著書は一冊1000円(送料込み)。問い合わせは千葉市稲毛区園生町500-10。TEL043(251)2865アトリエ芸林(午後7時以降)。

(2000.10.05 民団新聞)



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