民団新聞 MINDAN
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"古老の実話"の重さ



 北海道の山深い鉱山。周囲は高さ10メートルの崖。出入り口はたった1カ所。屈強な門番がこん棒を持って見張りに立っている。どう猛な番犬と―。

 語り手の口調も熱くなる。さぁどうなる。次の言葉を待つ聞き手も真剣。

 夜陰に乗じて必死で崖を登った3人は逃亡に成功したかに見えた。しかし、周囲は山また山。夜が明けても逃げだした場所から遠く離れていないことに愕然とした。

 捕まれば何をされるか分からない。腹は減るが水も食べ物も無い。山を下りながら見つけたのは沢だった。水と沢ガニを食べて命をつなぎ、7日目に人里に出た。

 聞き手の青年の表情にも安堵感が走った。しかし、安心もつかの間、次の冒険が古老の口から語られる。

 北海道から内地に渡る連絡船の船着き場は憲兵だらけ。物陰から見ると、朝鮮人を見つけてはどこかへ連れて行った。こりゃぁ大変!どこから手に入れたのかゲートルを巻き、戦帽をかぶって日本兵に変装して、無事内地へ。

 ホッと胸をなで下ろす青年。冒険活劇の紙芝居を語る講釈士と見ている子どもを彷彿させる。だが、徴用で北海道へ送られた古老の実話だけに「冒険」「紙芝居」とは全く違う。ハッピーエンドに終わるとは限らない。無念にも殉難した同胞も数多い

 青年会は今、一世の歴史や地域の同胞形成史を残そうと聞き取り調査を実施している。聞き手はほとんどが三世。資料で徴用や強制連行を知っていても、直接話を聞いたインパクトは大きかったに違いない。

 青年たちが自分たちの歴史を知ろうと訪れてきたことへの喜び。民族教育を確立できなかった一世たちの無念さ。古老は語りながら涙をぬぐった。(L)

(2000.10.25 民団新聞)



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