民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
21世紀の民族教育を見つめて

民族学校の現場から<4>



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欠かせぬ補助教材の研究

川原千秋(東京韓国学校・日本語教師)

 先日、本国のある初等学校を訪れた時のことである。玄関に入ると、数人の子供たちが爽やかなあいさつで出迎えてくれた。何度かその場所を生きつ戻りつしたが、そのたびに丁寧なあいさつを繰り返し、こちらが恐縮してしまうほどだった。

 礼を尽くすことを強調する教育にあらためて頭の下がる思いがした。そして、本校(東京韓国学校)で学ぶ生徒の八割以上が本国からの転入生で、そのような立派な教育を受けた生徒であることを思うと、身のひきしまる感を禁じ得ない。

 グローバル化社会にふさわしい教育ということで、斬新なカリキュラムや授業展開が期待されている今日だが、教育の原点と本質を見失わないようにしなければと、再認識させられた。

 現在、本校の日本語科は「できるだけ丁寧に、親切に」ということを目標に、教材研究、授業研究を行っている。今年度から在日6カ月未満の生徒を対象に、基礎初級班が編成され、個々のレベルに適った授業内容で効果をあげている。

 正規のクラスでは日本の教科書(国語)を使用しているので、難解な部分が少なからずあり、そのため補助教材の研究が欠かせない。基本的にはすべての本文に「かな」をふり、難解な語句には韓国語の注解をつけたもの、文法は国文法をそのまま与えるのではなく、かみ砕いて演習できるもの(日本語学会が提唱する日本語文法にまで飛躍することは避けたい)などを作成して、「わかる授業」に心掛けている。

 授業はほとんど日本語で行うため、修得も早い。留意していることは、板書の文字を大きく書くこと、重要な部分は繰り返しゆっくり話すこと、単元ごとに小テストをすること、高等部では「要約」と「意見」を必ず書かせることなどで、理解を促し確認するようにしている。

 意欲的な生徒は上達も早く、日本に来て2年もたてば、日本語能力検定一級や漢字検定に挑戦し、優秀な成績を修めている。また全国的(日本)に行われている作文コンクールや弁論大会でも、外国人としてのハンディを乗り越えて高い評価を受けている。

 また、高等部の在日を中心に、日本の大学に進学を希望する生徒のための大検受験への取り組みが、今年度から本格的に行われている。大検受験資格の枠が広げられたからである。

 高一の時から意識させ、高3までに全科目合格を果たすという長期展望の下で始まった初年は、受験者45名中、4名が全科目(11科目)合格し、ほかすべてが一部科目合格という結果を得た。

 この頃、私が努めていることは、できるだけクラスの雰囲気(本国の雰囲気)を壊さないようにするということである。近年、本校で学ぶ在日同胞の生徒は全体の2割にも満たず、1クラスに4、5人といった状況ではあるが、彼(彼女)らは大変恵まれた環境にあると思う。本国の香り漂う先生から直接教えを受け、礼儀正しい本国の子供たちとともに学ぶ。なんとすばらしいことか、と思う。

 高等部では、細やかな学科編成によって在日班でまとまることが多いが、今年度から日本語は同じ教室で授業が行われている。

 在日の子供たちに対する本校の配慮は深い。本国に学び、真に祖国を愛する心をもって、未来を明るいものにしてほしいからである。未だ偏見の多い悲しい社会で、なにかにつけて試される時も、堂々と立派であってほしいと祈る。

 眼を閉じれば、私の中に初・中・高の子供たちが入り乱れて遊ぶ心象風景が広がる。決して広くない運動場だが、兄姉に心を配り弟妹を思いやる空間であり、本国も在日もない空間が心地よく、私の中に大切に納められている。

(2000.11.29 民団新聞)



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