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慎武宏のコリアサッカーリポート

アジアの虎の鼓動



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21世紀に向けた大英断

 韓国サッカー界が激しく揺れている。レバノンから戻ってすぐ、11月10日から一週間ばかりソウルに行ってきたが、その混乱ぶりはかなり深刻だった。スポーツ紙はもちろん、一般紙でも『韓国サッカーの危機』との見出しが躍り、テレビでは『どうする韓国サッカー緊急討論会』なるものも放送されていた。「アジア最強」を自認してきた韓国に、この言い知れぬ危機感をもたらした元凶は言うまでもない。

 9月のシドニー五輪と10月のアジアカップが、韓国の危機感を煽っている。付け加えるなら、先日、イランで行われたアジアユースも衝撃だった。韓国は3連覇どころか、来年のワールドユースの出場権も逃してしまったのだ。こうした度重なるショックがもとで、韓国の人々は「このままでは2002年W杯は成功できない」としている。取材先で出会ったあるタクシーの運転手などは、「2002年W杯が来るのが怖い」と怯えていたほどだった。

 そんな国中の不満の声に追われる形で、アジアカップ後、許丁茂監督は退陣。名目上は契約満了だが、実質的には解任とも言える処置で監督の座から去り、大韓蹴球協会はついに外国人指導者の招聘に踏み切ることを決断した。これは大きな前進と言えるだろう。


■世界的名将の招へい

 何しろ伝統的に、純血主義を重んじ、外国人指導者を素直に受け入れられない閉鎖的な体質があった韓国サッカー界である。それを考えると、今回の決断は大英断だと評価できる。

 しかも、その人選が凄い。98年フランスW杯でオランダ代表をベスト4に導いた世界的名将、フース・ヒディンク氏である。

 世界のサッカー潮流を理解し、選手育成ノウハウに定評のあるオランダからの使者が、韓国サッカーの再起に力を貸してくれることになったのだ。この朗報を受けて、気が早く移り気な一部ファンの間では「2002年の躍進は約束された」との声も出た。あれほど深刻だった危機感も薄れつつある。しかし、私は、外国人監督招聘で韓国サッカーの危機が完全回避されたとは思わない。

 確かにヒディング招聘は韓国サッカー界にとって画期的なことである。彼が韓国人選手たちの底知れぬセン在能力を引き出し、戦術采配でも威力を発揮すれば、強い韓国代表の復活も夢ではないだろう。


■長期的プランが必要

 ただ、外国人監督が韓国サッカー界で成功した試しがないのも事実。韓国ではこれまで、ドイツのクラウチェン(68年)、インググランドのアダムス(70年)がユース代表のコーチとして招かれ、90年代には「日本サッカーの父」とされるドイツのクラマー氏がバルセロナ五輪代表の総監督を務め、アトランタ五輪ではウクライナのブィショベッツ氏が指揮を振るったが、いずれの指導者たちも大韓蹴球協会や韓国サッカー関係者との仲がうまく行かず、最後はケンカ別れのようなる形で母国へと戻っていった。ヒディンク氏が彼らと同じ轍を踏まない保証がないとは言い切れない。

 それに監督を代えただけですべてがうまく行くほど韓国サッカー界が抱えている問題は単純ではない。

 学校体育が基本で少数精鋭主義に依存する選手育成、勝負に固執したスパルタ指導、少ないサッカー施設、過酷な兵役制度など、ここ数年にわたって指摘され続けている劣悪なサッカー環境が、この世紀末に韓国サッカー界が襲われた危機に起因しているのだ。


■総力的な努力で構造改革を

 2002年W杯は確かに重要な大会だ。そこでW杯ベスト16に名乗りを挙げることは、ホスト国としての義務でもある。けれど、W杯は2002年以降も続くし、おそらくサッカーはこの地球が滅びないかぎり永遠なのだ。この事実を認識していれば、韓国サッカー界が今、一番すべきことがおのずと見えてくる。

 新監督を迎えた代表チームの強化に力を入れるのも大切だが、その数倍以上の汗を構造改革で流さねばならない。アジアカップで優勝カップを掲げ歓喜する日本代表の姿を見て、強くそう感じた。


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慎武宏(スポーツライター)

(2000.11.29 民団新聞)



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