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無年金高齢同胞に経過措置を



 半年間凍結されていた65歳以上の人からの介護保険料徴収が、10月から始まりました。金額は全国平均で毎月1500円とのことです。日本厚生省によれば国民皆年金制度に基づき何らかの公的年金、恩給を受給している人にすれば、決して払えない金額ではないでしょう。

 しかし、国民年金制度の発足当初から制度の枠外に置かれてきた在日同胞無金者は大きな負担感を強いられています。なぜなら、1500円という現行保険料は暫定的なものであり、来年4月からは約2倍に増えるからです。さらに、介護サービスを利用すれば、加えて一割の自己負担金を支払わなければなりません。


■介護保険料の負担が重荷に

 年金からの天引きではなく、窓口から直接納付する一般徴収の対象となった同胞お年寄りのなかには、来年3月まで6枚つづりの納付書を受け取って途方に暮れている人も多いのではないでしょうか。川崎市に住む在日同胞一世、余乙南さん(74)もその一人です。

 余さんには年金はありません。でも、生活保護は受けず、3カ月に一度、市から受け取る6万円の福祉手当と息子さんからのわずかな生活費だけを頼りとしています。そうしたなか10月に納付書を受け取りました。毎月の国民健康保険料のほか、さらに被保険者としての負担が加わることは、余さんにとっては大きな重荷だといいます。余さんは歩くのがやっとという痛む足を引きずりながらも、新たな負担に耐えかねてか「介護保険の世話にはなりたくない」と話しています。

 余さんの例を挙げるまでもなく、在日同胞無年金者が現実に不利益を被る事態は、これまでにも十分予想されてきたものです。

 本団でも介護保険制度発足当初から関係当局に然るべき対策と配慮を望んできました。なぜなら、介護保険制度が公的年金や恩給受給者を前提に成り立っている以上、在日同胞無年金者は制度がスタートした時点から切り捨てられたも同然だからです。


■無保険状態に陥る恐れも

 保険料の割高感に加え、現行のサービス内容そのものも在日同胞一世高齢者には魅力の乏しいものと映っているようです。

 在日同胞の文化的、歴史的な背景を理解したうえでの家事援助、炊事サービスをホームヘルパーに期待するのは難しく、日本人が集うデイサービスに赴いても仲間にとけこめず、心から楽しめないからです。このままでは多くの在日同胞一世が保険料を払えない、払わないことで無保険状態に置かれることも予想されます。

 今回の介護保険は税金による介護方式ではなく、「介護を国民全体で支える」社会保険方式が導入されました。こうした公平な共同連帯の理念は、公平な社会体制が前提となるべきです。

 しかし、在日同胞一世高齢者については、この前提そのものが成り立ちません。結果としては弱者に新たな負担を押しつけたにすぎないのです。

 在日同胞一世高齢者は、日本の戦前・戦後を通して、厳しい社会的差別の荒波に耐えながら生き抜いてきました。いまこそ、豊かな老いのひとときを保障してあげるべきではないでしょうか。

 介護保険制度の見直しにあたっては保険料の軽減ではなく、国民年金制度の法制定時にさかのぼって経過的措置を講じるよう、あらためて国と自治体など関係機関の再考を求めます。

(2000.11.29 民団新聞)



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