民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
「地方参政権運動」を再確認しよう



民団は総力を挙げて
粘り強い要望活動を展開してきた

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地域社会発展へ共に歩む
「住民」として21世紀を生きよう

 「永住外国人への地方自治体選挙権付与方案」が2000年11月にようやく国会審議入りした。民団が1994年以来、「最重点運動」として、全組織が一丸となって取り組んできた「地方参政権獲得運動」が実を結ぼうとしている。しかし、国会審議を前に一部与党の反対派によって、マスコミまでもを抱え込んだ「阻止」行動が始まった。公正を重んじるべきマスコミの一部で誤解と偏見がまかり通っていることに憂慮の念を禁じえない。ここでもう一度、運動の意義と私たちの立場を確認したい。


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徐ウォンチョル(民団中央本部国際局長)


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何よりも永住外国人の人権問題

■最近の反対論

 私たち永住外国人には、半世紀以上、日本の地域住民として生活してきた歴史と、日本社会の発展に同等の義務を果たしながら応分の貢献をしてきた実績がある。戦後50年以上経つのに、私たちには地域社会に制度的に参与する権利、すなわち地方自治体選挙権が与えられていない。つまり普通の住民としての地位がいまだ認められていないのである。

 そのため私たちの間から、帰化しなくても、永住外国人「住民」には付与されるべきだとして、1990年9月に地方自治体の選挙権を求める裁判が起こされ、95年2月、最高裁は永住外国人への地方自治体選挙権を容認する憲法判断を全員一致で示した。この判決によって、地方自治体選挙権における「帰化」論は崩れ去ったのである。

 従って、反対論者が今なお最高裁以前の論によって帰化のことを言うのはまったくの筋違いである。反対論者は、最高裁判決を尊重せず傍論と貶め、正確に伝えようとしない。国政と地方自治体レベルの違いを見ず、むしろ意図的に混同させ、帰化しない限り付与してはいけない、という一方的な外国人危険論に固執している。一部のマスコミや学者などもこれに同調し、国民に無用の不安や危機感を煽っている。

 私たちは、日本国籍が必要な国政レベルの選挙権を要望していない。最高裁が違憲ではないとした地方自治体レベルの選挙権を要望しているのである。

 特に、反対論者が理解しなければならないのは、私たちが求めている地方自治体選挙権は、何よりも永住外国人の住民としての生活権、「人権」の問題であるということだ。そこから始まるのであって、帰化から解決が始まるのではない。

 この視点を見落とすと、永住する外国人住民の心情が見えなくなるか、誤解することになる。私たちには生活している地域社会への帰属意識と強い愛着心がある。また同じ「住民」としての共生意識も非常に強いものがある。同時に在日韓国人としての誇りもある。

 「忠誠心」という国家レベルの尺度を、生活の場である地方自治体レベルにもってきて、帰化しなければ与えるべきでないと主張するのは、不寛容すぎるのではないか。

 国籍のみを唯一の判断軸とせずに、「住民」としての人権をもっと考慮すべきではないか。

 北欧などに住んでいる日本人は、親の日本国籍を尊重しながら、その国の地方自治体の参政権を行使しており、なんら問題は生じていない。

 今、日本の政治家たちに求められているのは、永住外国人に対する地方自治体選挙権付与の問題をこれ以上先送りすることではなく、未来を見据えて積極的に実現していく英知と、本来の日本人の美徳である寛容の精神を示すことではあるまいか。

 重箱の隅をつつくようなわずかなリスクばかりをあげつらって、大多数の外国人住民の願いを無視することは許されない。

 理解していただきたいのは、私たちは地方自治体選挙権について1980年代から、日本社会のコンセンサスを得るために地道に住民運動をしてきているということである。国にその法制化を求める地方自治体議会の意見書等の採択は、すでに千五百近くに至っており、日本の人口比で見ると74%をこえる賛同を得ている。

 昨年4月の統一地方選前に実施された読売新聞の世論調査において66%、今年11月9日公表された朝日新聞の世論調査においても64%が付与に賛同している。各政党の賛同も自民党の最終調整のみが残っている状況である。

 反対論者は、永住外国人住民への地方選挙権付与が、むしろこれからの日本社会の利益に資することを、広い視野に立って理解すべきだ。付与することによって、何よりも外国人住民の信頼を得るだろう。人は自分の出自と現状を否定されることほど屈辱的なものはなく、自分の存在意義を認められることほど嬉しいものはない。

 正当な住民として認められることによって、永住外国人は地域社会の責任ある構成員として一層寄与し貢献して行くだろう。

 同時に外国人住民を正式に受け入れることによって、地域社会の一層の活性化と発展を期待することができる。日本が民主主義の成熟した、開かれた「人権先進国」として、アジア及び世界に高く評価され、日本のイメージアップにつながるだろう。

 マイナス面ばかり心配していては進展はない。外国人住民を危険視するよりも、プラス面をもつと積極的に考え、受け入れてこそ21世紀の日本の明日があると確信している。


首都圏の大学生700人が参加した
公開討論会でも「付与賛成」が圧倒した

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「帰化論」まで持ち出す反対派
わずかなリスクだけを誇張し偏見と誤解招く

■私たちの訴え

 私たちは戦後50年以上、日本の地域住民として生活している。生活の場である地域社会の発展のために、日本の友人たちと苦しみも喜びもともに味わってきた。

 しかし今なお、正式な「住民」として地方自治体に参与する権利が認められていない。正当な「住民」とは、「地方自治体選挙権を有する者」のことだ。半世紀以上の住民としての歴史があるにもかかわらず、一部で揶揄するように、私たちは「二級市民・B級市民」の地位に置かれたままだ。

 このままではいけない。私たちの決意は、在日韓国人として親の国籍を大事にし継承しながら、日本社会の責任ある地域住民として生きていこう、そのためには「住民」としての資格、すなわち制度的な発言権を有する「住民」として正当に認めてもらわなければならない、というものだ。両方を大事にしたいのである。

 このように、一言でいうと、私たちの地方自治体選挙権獲得運動は、「住民」としての資格を求める「住民権」運動なのである。

 永住外国人の「住民権」を認める機運は、すでに日本社会に充分熟している。反対論者はそのことを理解し、国民の良識を信頼すべきだ。

 私は、地方自治体選挙権は必ず付与されると信じている。この運動は実現可能だからこそ、ここまで来ている。最高裁における司法上のコンセンサス、全国自治体の意見書採択によるコンセンサス、また世論調査でのコンセンサス。一部の時代錯誤的で感情的な障壁はあるにしても、必ず付与されると確信している。

 実現不可能な運動ならば、ここまで至ることはない。水は高いところから低いところへ流れるものだ。国際化と同じように、人権も国境をこえ国籍をこえるものだ。一番大事なのは、永住外国人住民を正規の住民として受け入れる、日本社会の自信と寛容さだろう。


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日本社会の成熟への試金石

■「住民」としての歴史

 戦後の私たちの歴史を概略だけでも確認しておきたい。

 私たちは、1945年12月、衆議院議員選挙法の改定により、「戸籍法の適用を受けない者の選挙権及び被選挙権は、当分の間これを停止する」として、日本を生活の本拠とする住民であるにもかかわらず、参政権から一方的に排除された。

 すでに同年の8月の時点で天皇主権は終わっており、同選挙法改定がポツダム宣言受諾による戦後の新しい「主権在民」の選挙をめざしていたにもかかわらず、日本国内の住民である私たちが参政権から一方的に除外された事実は遺憾としか言いようがない。

 1947年には日本国憲法が施行されたが、その当時、日本に住む私たちの参政権を保障する政府が韓半島には存在していなかったにもかかわらず(1948年韓半島に南北の国家樹立)、私たち住民を一方的に「当分間外国人」とみなし、参政権から排除したこともあわせて想起すべきである。

 さらに、1952年4月サンフランシスコ条約締結の9日前、私たちに国籍選択を問うこともなく、法務省民事局長通達によって日本国籍を喪失させた。あわせて外国人登録法が施行され、指紋押捺と登録証の常時携帯が強制された。

 このようにして戦後私たちは、住民としての正当な権利を剥奪されていった。戦後初代の入国管理庁長官を歴任した鈴木一氏は、私たちの問題についてこう言っている。

「国内問題の一つとして、日本国民に準じた内国人待遇、総合的対策がなければ、それは日本の盲点である」、と。

 1965年の日韓国交正常化の時、ようやく在日韓国人の法的地位協定が結ばれる。この時に私たちに保障されたのが、(1)日本の義務教育(2)国民健康保険(3)生活保護の3つであった。

 それから70年代に入る。70年代は一言でいえば就職差別や社会福祉等を中心とする国籍条項の撤廃、いわゆる民族差別撤廃運動が市民運動とともに盛り上がり全国に広がっていった。




地方参政権獲得運動をめぐる主な動き
87/3. 韓日法的地位協定改定の要望事項の一つとして、「地方参政権の付与」を打ち出す※「在日韓国人の権益に関する要望書」(全国統一第6次要望書)で地方自治体選挙への参加を要求する活動開始
91.1.10 91年問題韓日外相覚書合意(指紋押捺撤廃、特別永住、他) ※覚書で、「地方自治体選挙権については、大韓民国政府より要望が表明された」と明記
92/3. 生活権拡充運動の最大目標として地方参政権問題を打ち出す
93.9.9 大阪岸和田市議会が全国で初めて定住外国人参政権の付与を政府に求める決議−地方議会での意見書採択要望活動が全国に拡散
94/1. 新党さきがけ島根が「在日外国人の入党を認める」と発表
94/4. 民団の名称・綱領等から居留を削除、「定住」を明確にする地方参政権獲得を最優先課題として全力投球確認
95.2.28 最高裁が「永住外国人に法律によって地方選挙権を与えることを憲法は禁じていない」と判決
96.1.14 日本、「人種差別撤廃条約」発効(146カ国目)
96.11.12 自治大臣(白川勝彦)が一般職の外国人採用を条件付きで容認
97.5.8 民団、参政権獲得・同胞和合120日間運動を全国で展開
98.10.6 民主・公明両党、法案を国会に提出
98.10.8 金大中大統領、日本政府と国民に地方参政権付与を要請
98.12.8 共産党が被選挙権を含めた法案を国会に提出
99.8.11 衆議院で法案が初めて審議される(〜8.13)
99.10.4 与党三党、「成立させる」ことで政策合意文書に署名
00.1.21 公明・自由与党二党、法案を国会に提出
00.5.8 民団、早期立法化を求める全国統一陳情活動展開
00.5.23 衆議院で二回目の審議
00.7.5 公明・保守与党二党、民主党、法案再提出
00.8.23 自民党執行部、党議拘束外す方針を固める
00.8.29 自民党総務会、党議拘束を外すことに異論相次ぐ−自民党内調整難航、審議入り目途立たず
00.9.21 自民党内、反対議連「慎重な取扱を要求する国会議員の会」発足。臨時国会開会(〜12.01)
00.9.23 韓日首脳会談(熱海)で金大中大統領が今世紀内の成立を要望
00.10.2 共産党、参議院に法案提出
00.10.4 民団、臨時国会での成立を求める全国統一陳情活動展開 ※全国会議員に陳情書直接提出



■運動のうねり

 70年代は、外国人住民に対する指紋押捺廃止運動を中心とした人権運動が高まり、共に生活者として住む日本市民との諸々の格差に、日本生まれの二・三世たちが、「これはおかしい」と各地域で一斉に声を挙げていった。同じ住民として「おかしいじゃないか」という認識である。

 このような住民としての意識の高まりとともに、90年代に入る。私たちの生活権運動としての地方自治体選挙権獲得運動が高まるエポックが五つある。

 一つは、91年1月に在日韓国人の法的地位と処遇に関し、日韓外相覚書が締結された。これの主内容は、指紋押捺の廃止とあわせ、子々孫々私たちに日本における永住資格を認めたことだ。さらに覚書には、在日韓国人の「地方自治体選挙権について、大韓民国政府より要望が表明された」と明記された。

 このとき、当時の海部俊樹総理が日本国民にあてたメッセージが「共生」のメッセージとしてクローズアップされた。それは今ここに思い起こしても大切なものだ。

 「私は世界的視野に立って今後の日本社会の建設を進めていくに当たっては、国内におられるこれらの方々と、同じ社会に生活する人間として共に考え、共に生きることができるようにしなければならないと考えます」、と。

 2つ目は、93年9月に大阪府岸和田市議会が自治体の中で初めて、定住外国人への地方選挙権の確立を政府に求める決議をした。これの意義は自治体議会が外国人住民を公的に住民として認知し、あわせて地方自治体選挙権を付与するよう政府に対し、法の制定を求めたことだ。これによって他の自治体も続々と同様の決議をし、今では千五百近い議会が決議している。

 3つ目は、94年1月に新党さきがけ島根が在日外国人の入党を認めたことだ。定住外国人は同じ住民であるから、ともに地域の政治に参加すべきだという、一言でいえば私たち外国人住民の政治参加を認めたものである。これが他の政党にも波及したことは言うまでもない。

 4つ目は、94年1月に在日韓国人団体の「民団」がその名称、綱領、規約から、「居留」を削除し、内外に定住宣言をしたことである。在日韓国籍のまま地域住民として永住していく決意を表明したわけだ。

 そして5つ目は、95年2月の最高裁判所判決。この判決は大きな意義がある。

 それは、「国民主権」とは別に、永住外国人の「住民」の論理を認めたからだ。最高裁は、国政レベルと地方レベルの参政権を区別し、地方自治体レベルの選挙権については、永住外国人住民に付与しても違憲ではない。法律措置を講じるかどうかは、国の立法政策の事柄である、とした。

 従って、地方自治体選挙権に関しては国籍の問題よりも、住民としての密着度、生活実態が重要であるということだ。最高裁判事5名が一致した判断を出した意義は大きい。最近、海外日本人に国政比例区の選挙権が付与されたが、地方自治体選挙権には一言もない。彼らは日本国籍を保有していても、住民ではないからだ。

 これまで政府機関や一部政党などが言ってきた、日本国籍を持たない者に選挙権を与えることは出来ないという、いわゆる「国民主権」の論理とは別に、地方自治体レベルに限っては、永住外国籍「住民」の論理も許容されたのである。

 これは私たちの長い間の住民としての権利の正当性を認知したものである。

 こうして98年10月に国会に初めて付与法案が提出され、99年8月に初の国会審議、今年5月には二度目の審議がなされた。現在、法案は公明、保守、及び民主、共産の各政党によって再提出され、11月15日から衆議院で審議が始まった。

 1日も早い成立を強く期待している。


■国民主権と違憲

 これまで述べたように、最高裁判決は国政と地方自治体を区別し、地方自治体選挙権に関しては永住外国人も「許容」としている。違憲問題はすでにクリアしている。

 また地方の条例は、国の法律の範囲内で制定される(憲法94条)。条例制定に外国人の意見が入ったとしても、国民主権が脅かされることはない。地方自治体選挙においては、「国籍」よりも「生活実態」に基づく解決がなされるべきである。

 「国民固有」の権利と「住民」の権利は違う。国政への参加を国民に限定しても、地方自治に外国人住民が参与することは否定されない。

 立法化のための法の見直しについては、憲法93条における「住民」の定義を、永住外国人住民も含むものであることを、国会または政府統一見解で明確化すれば、改憲の必要性はない。

 世界の多くが認めていないというが、世界の多くが中・後進国である。日本は世界第二位の経済大国である。先進国は何らかのかたちで付与している。アメリカは生地主義であり、アメリカで生まれた者は無条件でアメリカの市民権が与えられる。


国会に提出されている法案の概要
法案名 「永住外国人に対する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権等の付与に関する法律案」
提出政党 ○公明・保守党案(2000.7.5提出) ○民主党案(2000.7.5提出) ○共産党案(2000.10.2提出)※被選挙権含む
対象者 満20歳以上で同じ市町村に3カ月以上住む永住外国人
*特別永住者 52.3万(在日51.8万)、一般永住者11.3万(在日2.9万)
選挙人の
申請主義
市町村選挙管理委員会が、「永住外国人選挙人名簿」を調製、保管
対象者は、住所地の市町村選挙管理委員会に、「永住外国人選挙人名簿」への登録を申請
登録しない者は、付与されない
登録者の
権利と資格
都道府県と市町村(東京23区含む)の首長選挙、議員選挙に投票するための選挙権が与えられる
地方議会の解散や首長の解職、条例の制定・改廃、事務の監査などを求める直接請求権
人権擁護委員や民生委員などの就任資格

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地域構成員として理解
各種世論調査・ほとんどが賛成多数

■有事に対して

 条例が法律をこえられないように、一定の枠のもとの地方自治が基本である。そういう地域社会のシステムに外国人が参入することで支障が生じるとは考えられない。

 最終的に首長が判断するわけで、議会の意見を聞いたり、場合によっては住民投票方式を用いて住民の意向を訊くなど、自治体の動きを見てするわけで、議論されているような具体的な障害が生じることはない。

 外国人住民の投票行為において、具体的にどういう危険があるのか。危険論は、地方自治体選挙とは直接関係ないもので、外国人自体の存在を有事とからめてみている点で、むしろ問題である。さらに、外国人はおよそ参政権になじまないという、俗耳に入りやすいレベルの感情論に歪曲している。

 永住外国人住民は約60万、日本の人口の0・5%、現実に障害が起こり得る状態ではない。全国で最も永住外国人住民が多い大阪市でも、日本人と一緒になって地域の人々が選挙するのだから、もし選ばれた人に問題があれば民意によってやめさせればよい。一部反対者は、市議選・県議選と連動する国会議員選挙への影響を懸念し、その利害のみを考え、外国人住民の人権面を少しも考慮していない。

 永住外国人がその母国で参政権を有している場合、二国間にまたがって二重投票ができない防止策を取ればよい。永住外国人住民の多住地域については、EUを参考に住民の20%以上が外国人であれば、選挙参加に制限措置を設ける方途も考慮する余地はある。

 いずれにしろ、多少の弊害が想定されるとしても、大多数は日本人なのだから重大な影響を与えるとは思えない。


■帰化論に対して

 帰化しない限り住民としての権利を与えないというのは、いかがなものか。

 帰化の問題と、永住外国人住民の権利としての地方自治体選挙権問題とは次元の異なるもので、同列に論じるものではない。

 かつて指紋押捺が嫌なら帰化すればいいという論があった。帰化しない方が悪いという論は基本的に間違っている。在日韓国人として生きられる環境を整備せず、帰化を強要するのは問題である。

 誰でも親の国籍や民族性を大事にし、維持、継承したいと思うのは自然であろう。それが否定され、帰化しない限り認めないというのは不寛容というものだ。わかりやすい言葉で言えば「差別」である。現実に本名での国籍取得が困難な状況が継続してあり、その者の民族性をなくそうとするところに問題がある。ありのままの永住外国人住民として、その住民権を認めることが先決なのである。


■「忠誠」

 感情的に外国人と日本人を二分し、日本国籍を取れば国家に忠誠を尽くし、外国人はそうでないというのは根拠がない。日本国籍を取ったとたん、忠誠心が生まれるというのは奇妙な話で、理屈にならない。郷土愛や地域社会への愛着心は国籍とは直接関係ない。

 忠誠心や帰化の強要は、海外に住む百万近い日本人に対しての配慮にも欠けるものだ。これからは労働力の面一つ取っても、外国人の参加なしには日本社会がたちゆかなくなることも想起すべきであろう。


■朝鮮総連の反対

 総連にとっては、日朝国交正常化、補償問題、海外公民としての制度的認知が目下の最優先である。まだ「住民」として地方自治体選挙権を求める段階まで至っていないと言うのが実情である。

 総連が言う同化は、日本籍への帰化や韓国籍への離脱を「同化」といっている。日本の地域住民として安定した地位を得れば、北朝鮮の政治体制や総連からの離脱者が増え、北への帰属意識が薄れるとともに、民族性も希薄になり、ひいては総連組織自体が壊滅すると恐れている。

 内政干渉については、国政と地方自治体を区分すべきであり、国政は内政干渉であるが、地方自治体レベルの参政権は、生活に直結しており、「住民」として必要なものである。

 国会に提出されている法案は申請主義である。反対者の人権を尊重しており、嫌なら登録しなければいいのであって、ことさら反対し、日本社会に「対立」構造を持ち込むことは厳に慎むべきである。

 彼らは、永住外国人の総意でないということを反対理由の一つに挙げているが、民主主義社会においては100%の合意を求めることは不可能に近いことだ。在日韓国・朝鮮人の比率は、現在約64万人中、約50万近くが韓国籍であり、統計だけみても同列に扱えない。また各種アンケート調査などによっても、大多数の同胞が永住資格をもち、住民として地方自治体選挙権を強く望んでいる。

 一部政党の反対・慎重論者が、民団と総連が合意するまで待つべきだと言うが、これは理に合わない。たとえば同じ日本人でありながら、自民党と共産党が政治理念の違いから合意できないことを承知の上で、両者が合意できるまで駄目だと言っているのと同断である。単に先送りしたいがための理屈である。


■納税の義務

 納税の義務の有無は、住民としての参政権を支える重要な論拠であるが、地方選挙権は納税だけを根拠にしているものではない。「代表なくして課税なし」という言葉があるように、納税と議会制度というものは密接に結びついている。納税者としてその使途について意思を反映させることは民主主義社会において望ましいことだ。


■日本のあり方

 地域社会のあり方、私たち永住外国人を仲間に入れるかどうか(共生)の新しい枠組みづくりが問われている。今までの「帰化」という枠ではなく、外国人住民の人権を保障した枠をつくるかどうか。永住外国人住民にどんな社会的、政治的権利を認めるのか、この問題は日本社会の成熟度をはかる試金石となっている。

 私たちにとっては、今後、日本社会で安定した住民として生きていく上での新しい枠組みとして是非必要なものである。

 加速化する国際化に地域社会がどう対応するのか。人間が国境をこえ定住する時代である。国籍を基準にした人権保障では生活の実態にそぐわなくなっている。後ろ向きではなく、日本がまず先鞭を付けるという前向きの姿勢こそ求められている。



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