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戦争の世紀の語り部



 20世紀が幕を閉じる師走の18日、京都府八幡市文化センターで新屋英子さんの一人芝居「身世打鈴」を観た。日本の無謀な戦争によって、人生を狂わされた在日同胞のハルモニが主人公だ。生業は屑鉄業で、リヤカーには段ボール、古新聞紙が積まれている。そこに在日同胞の原風景があった。

 初演から27年が経過している。ある府立高校の人権月間記念イベントとして企画されたこの日の公演で、通算1811回目となる代表作を、新屋さんは孫にあたる世代の前で演じた。

 会場の後方に座っていると、暗い客席の中に緑の明かりがちらほら見える。携帯電話のメール通信なのだろう。公演前、教師が口を酸っぱくして最低限のマナーを守れと言った言葉は、今どきの生徒たちには馬耳東風だった。

 公演が終わり、マイクを渡された新屋さんは、「みなさんの今の自由は、戦争になると一切が奪われてしまう。戦争は人権を剥奪する一番大きな罪。この国が二度と戦争を引き起こさないように、次の時代を担う若いみなさんがしっかり勉強して再び過ちを犯さないようにしてほしい」と切々と語った。

 戦時中、新屋さんは日本の軍属だった。戦争が終わるやいなや、軍の権力者たちは隠していた食糧をもっていち早く逃げた。「神国日本」の背走。それを見て、おぞましさを覚えたという。

 背筋を伸ばして反戦の哲学をきちんと説く20世紀の語り部に胸を熱くする一方で、自国の過去に向き合おうとしない「自由主義史観」なるものが世紀末の日本で台頭し始めている。ぼくらの子どもたちが生きる21世紀を平和の世紀にするために、何ができるのか、年の瀬に考えさせられた。(C)

(2000.12.21 民団新聞)



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