民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
21世紀の民族教育を見つめて

民族学校の現場から<8>



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国際社会と美術教育
高正姫(東京韓国学校・美術科教師)

 21世紀に向けて、国際化、情報化社会に対応するあたらしい教育課程が世界各国で研究され、実施されるようになった。教育現場においても新世紀を生きていく人間にふさわしい未来志向的な教育課程が必要となってきている。この日本でもそれは例外でなく、教育現場へのIT(情報技術)導入の動きが見られる。

 美術教育とは、人間と社会に視覚的な自我表現の手段を提供することである。何よりも多く使われる感覚器官である「目」に対する教育で右脳・左脳の均衡ある発達をはかり、また、自由のうちに秩序意識と個性を生徒たちが持てるようにする教育、人生に美しさと楽しさを与える情緒教育、が私の考える「美術教育」である。美術教育を通し、生徒たちの視覚的感覚と造形能力、創意性をはぐくむことにその目的があるといえる。

 本校における美術教育の目標は、美術教育一般のほかに、祖国の伝統文化の美しさを自分のものとして受けとめることだ。とくに、韓国絵画を通じた美術教育は、生徒たちに祖国への愛着をさらに深めることにつながる。

 韓国画といえば伝統的な水墨画や彩色画が主流とされてきたが、最近の韓国美術界では、朝鮮時代に描かれた「民画」が注目を集めている。「民画」とは、朝鮮時代の無名作家の作品であり、有名作家や「おかかえ画家」によるものではない。庶民の立場から生活の中で自由に描いた、とても個性的なものである。本校でも、水墨画と彩色画のほかにもこの「民画」を取り入れている。

 韓民族固有の風習、文化、生活という土着的なものに密接した美術の民族教育は、国際化に即した民族化の方向で、生徒たちの才能をさらに開花させるだろう。

 生徒たちの絵には、生き生きとした韓民族の情緒がつねに見られる。素直に表現するすばらしい才能を持った生徒たちを見ることは、教師にとっても大きな喜びである。絵は文化の精髄であり、色彩は民族そのものを表すのである。

 絵を描くことに、はじめはとまどった生徒たちも、「民画」をむずかしい絵だと思っていた生徒たちも、ゆっくりと彩色をおこないながら、民族の独創的な精神と文化を受け入れていく。これこそが、民族教育としての美術教育である。

 伝統民画のほかに、現代美術分野では、抽象画技法を用いて内面を表現することを試みている。心象の表現から生まれるさまざまな色彩と構図は、不安定で変化しやすい青少年期のこころを解放し、安定した情緒生活をもたらすことに大きな影響を与える。美術史の学習を通してのすぐれた作家たちとの出会いも、美術教育の一環である。

 国際化社会をむかえ、わが校でも、美術教育にコンピュータを導入して、CG(コンピューター・グラフィック)を計画し、実施の段階にある。

 英語・国語・日本語を自在にあやつり、コンピュータを自由にあつかうことのできる方向で教育をうける本校の生徒は、さらに未来志向的な美術教育によって、21世紀の主役になれると確信する。

(2000.12.13 民団新聞)



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