民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
21世紀の民族教育を見つめて

民族学校の現場から<9>



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日本の中の韓国語学習
洪順愛(名古屋韓国学校・韓国語教員)

 名古屋韓国学校は今年開校38周年を迎えました。在日韓国人子弟の民族教育の場として出発しましたが、その後、日本社会の変化に対応してその教育目的に国際化教育が加わりました。

 教育内容は韓国語教育を主軸に韓国の歴史、料理、音楽など多岐にわたっています。国籍、年令を問わず門戸を開いて受講生を迎え入れていますから、どの講座も年令も職業も様々な在日韓国人、日本人が机を並べて学んでいます。

 私もそういう受講生の一人でした。現在まで27年間、ソウルで暮らしていた6年を除いて本校で韓国語教育にたずさわってきましたので、紙面をお借りして韓国語学習について、私の所見をお話いたします。

 韓国語学習は在日韓国人と日本人の意識を変える大きな影響力を持っています。在日韓国人は、韓国人である自分を素直に受け入れられるようになること。そして、それまで、偏見や差別に対して無抵抗だったのに、そういう不条理に積極的に立ち向かわなければならないという責任感を覚え始めること。

 アイデンティティーの確認は自分自信を尊重し、解放することにつながる精神改革で、民族教育が目的とする最も重要なことです。

 マザータングは本来、生まれ落ちた時から母親の言葉を通して学習していくものですが、そういう機会を得ないで大きくなった在日二世、三世、四世に必ず一度は体験していただきたい韓国語学習です。

 次に日本の中の韓国語の位置について言いますと、韓国語の位置は在日韓国人の位置に相似しているようです。今も尚、多くの日本人には距離のある言語であるがゆえに、韓国語は日本の中で肩身のせまい言語だったし、現在も完全にはその待遇からまぬがれていません。

 言語との距離はその言語を使って暮らす人たちとの距離でもありますから、言語学習は最終的にはそれを使う人々への理解、受容に行きつくものだと私は信じています。

 日本人受講生の多くは「在日韓国人に関心を持つようになった」「母国と母国語を知らない人が多いことがわかった」と言っています。

 これから先、日本の中―在日韓国人社会と日本人社会―での韓国語の位置をより確固たるものにするには、韓国語が市民権を得ること、これが必要条件だと思います。

 市民権を得るためには在日韓国人、日本人を問わず学習者の底辺拡大―在日韓国人も日本人も若い人たち、幼い人たちの学習者確保―が優先課題です。

 早晩、大学入試センター試験科目に第二外国語として韓国語が導入されるでしょう。これが学習者増大につながるには時間を要すると思いますが、これも学習者拡大を図るのに有利な条件にすべきでしょう。

 そのためにはどのような取り組みが必要か、早急に対応策を考案しなければなりません。

 次に教授法について若干、触れたいと思います。八八ソウル五輪以後、日本での韓国語ブームは続いています。韓国、韓国語に関する出版物も後を絶ちません。韓国語の文法書、辞書には立派なものがたくさんあります。

 そして、韓国語指導者の韓国語能力は年々高まっています。しかし、それに反して教授法の研究は立ちおくれているような気がします。

 教授法研究の立ちおくれ原因には、韓国語と日本語の構造が他の外国語に比べて比較にならないほど似ていること、母国語として韓国語能力のある人が周囲にたくさんいることが、教授法研究の必要性と重要性を感じさせなかったのではないでしょうか。

 韓国語能力と韓国語指導能力とは決して一致するものではありません。むしろ、韓国語に自信のない場合の方が切磋琢磨するように見受けられます。受講生により教授法も異なりますから、これが最良と言う教授法はおそらくないのではないでしょうか。

 だからと言って教授法研究の必要性がないわけではありません。個々の指導者が持つ教授法の発表機会や情報交換機会の場所が必要です。

 教授法の研究は優秀な指導能力をもつ指導者を生むことにつながると思います。現在、教壇に立っている私たちには韓国語指導ともう一つ、後継者育成という重要な課題が科せられています。

 最後に私の授業に関するお話をいたします。私の授業におけるモットーは「授業は楽しく」。

 教室の雰囲気は受講生と教師が作り出すものですので、協力し合って楽しい学習の場になるよう努めています。そして、受講生には楽しんで、ゆっくり、長く学習することを勧めています。

 本校のような国籍、年令、職業、学習体験などの異なる人々が机を並べて韓国語を学習することは、国際化教育そのものであり、こういうスタイルの教室では教師にとっても教育の醍醐味と言えるでしょう。

 韓国語教育が私にとって非常に有利なのは私と受講生が同じように日本語能力を持っているというところにあります。

 韓国語学習において、指導する側も学習する側も共に持っているのが日本語能力ということは非常に有利なことです。

 この能力と利点を十分に生かして学び、指導しています。昨年4月から一クラスだけネイティブスピーカーのTAと一緒に授業を行っています。本校では初めての試みですが、受講生たちにも好評ですので、財政的に少し負担がかかりますが、続けていけることを願っています。また、自分で考案した副教材をどんどん学習に取り入れていけることも、やり甲斐につながっています。

 教師が受講生一人ひとりの学習能力や関心度などをつかみ、授業の進め方、指導方法にも臨機応変に柔軟性を持たせる必要があります。

(2001.01.17 民団新聞)



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