民団新聞 MINDAN
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永住外国への地方参政権

日本各界に意見を聞く
伊藤成彦(中央大学教授)



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社会益を軸に思考を
共生には国際化が不可欠

▼地方参政権と納税の関係をどう見ますか。

 国際的な趨勢として国家、国境を越えた移動がどんどん進んできているし、一例として外国人労働者の問題は、減ることはない。外国人が定住化し、家族も増えていくと地域での権利も発生する。定住外国人はある地域に一定期間暮らし、納税の義務を果たしている。税金というのは、人々が共同生活を送るための共同費用だから、共同生活者としての権利も平等に保障されなくてはならない。同時に地域の約束事を守るという義務もある。

 したがって、地方自治体では投票権はもちろん、選ばれる権利、被選挙権も平等というのが原則だ。基本的な権利であるにもかかわらず、地方選挙権法案の「付与」という言葉のように、恩恵的に与えてやるという言い方はおかしい。また、特定の人にだけ与えるという考え方自体が差別だと思う。

▼被選挙権を認めると、特定の地域に外国人が移住してその地域の議員になるのではと危ぶむ意見もありますが。

 現実的にたくさんの外国人が暮らしている場合は、その代表が出てきて自分たちの暮らしの問題や文化の違いをむしろ地域のなかで主張できるようにすべきだと思う。議員の人数に限りがあるのだから、とてつもないアンバランスが起きるとは思わない。

 北海道のアイヌ民族は非常に少数民族だが、わりと集まっているところには、市会議員、村会議員が存在する。何も問題がないし、いた方がいい。

 参政権は国民固有の権利と言って国籍を持ち出したり、帰化を持ち出す。あるいは、日本の国益とか、国政と地方自治は不離一体というが、それは19世紀の論議だという気がする。とても古い考え方だ。あまりにも国家というものに縛られすぎている。

 むしろ国家というものをできるだけ緩やかなものにして、壁を薄くしたり、低くしていくのが現代の趨勢です。

 国益よりも「社会益」、つまり、みんなの利益が大事だと思う。地域でみんなが調和を図り、仲良く暮らしていくために、それぞれの立場を知り合うということだ。EUの場合は、貨幣も共通のものにした。日本は島国だとはいっても、地方政治は現に国籍や人種を越えた場であるし、地域で共生していく上で、国際化は世界の趨勢だ。

▼21世紀を迎える前に、日本で過去に回帰するような古い価値観が台頭してきましたが。

 自信が持てない何か不安な状態というのは、清算すべき歴史を清算していないからで、そうなると自分の中だけで固まろうとする。そういう古臭い日本のナショナリズムは少数だと思うが、ただ声が大きいから目立つ。朝鮮半島では南北首脳会談の後、急速に和解と協力が進んできているが、日本はもっと早く協力すべきだった。

 戦後ようやく55年目にしてそうなったが、日本が朝鮮を植民地支配しなければ、朝鮮の分断はないわけだから、そういう歴史も考えて、在日朝鮮人の人権は特に尊重しなければならない。それは当たり前のことだ。あべこべに過去さえ反省しようとしない、そういう風潮が今もってあるのは残念だ。

 参政権問題で民団と総連で意見が違っているが、南北の歩み寄りと、金大中大統領も日朝国交正常化を進めるように日本政府に進言しているように、日朝交渉を進めるべきだ。そうすれば、この問題についての意見の違いはなくなってくる。

 民団と総連の実質トップが昨年11月に朝鮮奨学会のレセプションで会ったわけだから、この問題について双方が「われわれの当然の権利だ」と要求すれば、自民党も反対できなくなる。同時に在日の日本人以外の人たちにみな共通の問題なのだとみなさんから話せば支持も広がると思う。

(2001.01.24 民団新聞)



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