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息づく朝鮮人陶工の伝統

「萩焼」400周年を迎えて
尹達世(壬辰倭乱研究者)



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李勺光を始祖に発展…坂高麗左衛門の系譜12代

 一昨年の「薩摩焼」に続き、今年は「萩焼」400周年を迎えた。これを記念して、昨年秋にはパリで「萩焼400年展」が開催され、本年は1月5日からサントリー美術館での東京展を皮切りに京都、福岡、山口でそれぞれ400年展が開かれることになっている。

 九州や山口県の有名な「やきもの」が最近、続けて400周年というのはいずれもその起源が、豊臣秀吉の惹起した『文禄・慶長の役』と呼ばれる朝鮮侵略に因るものだからである。

 「萩焼」の故郷、萩市は山口県の西北部にあって、北は日本海に面し、東西南の三方は山に囲まれ、南の山から流れる阿武川の河口にそのデルタ洲の上に町がある、といったところである。

 当地は明治に入るまでは毛利藩36万石の城下町であった。一般には、幕末に吉田松蔭など「勤皇の志士」を多く輩出した町としての方がよく知られているだろう。明治に入って近代化に取り残されたため、古風な白壁の武家屋敷なども今に残り、現在では落ち付いた雰囲気がかえって観光客には人気の高い町になっている。

 戦国時代には広島に本拠を置いて120万石を誇っていた毛利藩が萩に押し込められたのは関が原の戦いで敗れたためであるが、それに先立つ『朝鮮の役』では九州の領主たちと同じように、多くの朝鮮人たちを捕虜として連行した。その中にはのちに萩藩中堅の武士となった者もいるが、陶工たちも数多くいた。

 朝鮮から連れて来られた陶工たちが焼いたやきものが「萩焼」と呼ばれるようになり、昔から茶道界では「一楽、二萩、三唐津」と言われ、茶陶器として高い評価を受けてきた。

 かれら陶工たちのうち、現在まで名を知られているのが萩焼の元祖、李勺光であり、坂高麗左衛門の祖である李敬であり、三輪家の祖である赤穴氏である。

 李勺光は萩城下、東はずれの松本村に居を構えたが、のちに西方の深川(長門市)に移って窯を開き、弟の李敬は松本村に残ってやきものを焼いた。李勺光が深川で亡くなると、その子は叔父の李敬に育てられ、藩主から山村新兵衛光政という日本風の姓名とわずかな扶持を賜り、焼いたやきものは深川焼と呼ばれた。但し、山村家は6代で断絶し、現在長門市の深川でのやきもの作りは山村家の高弟たちの子孫が受け継いでいるものである。

 李敬もまた、藩主から出身地に因む坂高麗左衛門という日本名を賜り、松本村で萩藩のやきもの作りの宗家となった。但し2代からは7代までは高麗左衛門の名は使われず、新兵衛とか助八を名乗り、再び高麗左衛門の名が名乗られるようになったのは幕末の8代目からで、現在12代までの通り名となっている。

 また、第10代が人間国宝の認定を受けた三輪家もその家系は、始祖が毛利家の一門であり、重臣でもあった宍戸元続に捕らわれて渡来した朝鮮人陶工だった。当初石見(島根県)で陶器を焼いていたが、父の死去後、子の赤穴蔵之助が萩に移り、3代目利定(休雪)が三輪と姓を改めた。

 それに中途から三輪利定とともに召抱えられ、松本焼に加わった佐伯実清家(のち林と改姓したが3代で廃絶)は代々毛利藩の家臣で、その祖父は「朝鮮の役」にも従軍した武士であったが、その妻はその時に連れ帰った朝鮮人女性であったという因縁もある。

 このように、毛利藩の城下の東郊、松本村(松本焼)や西方の深川(長門市)で焼かれたやきものを総称して「萩焼」と呼んでいるが、いずれも「朝鮮の役」で日本に連れて来られた朝鮮人陶工たちを元祖とする系譜の「やきもの」である。

 それにしても萩焼に関してはまだ不明なことも多い。例えば有田では日本最初の白磁を焼いた李参平が陶祖として崇められているのに対し、開祖である李勺光の没年や墓の場所さえ不明である。

 佐賀・鍋島藩などは朝鮮渡来のやきものをハイテク技術と見なし、いち早く産業振興と結び付けた。後には輸出までして藩財政に寄与したのに対し、毛利藩ではただ藩主の趣味のやきものとして終始したという違いがあるのかも知れない。


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東京で萩焼400年展・2/12まで開催

 2月12日まで、東京のサントリー美術館で「萩焼400年展」が開催されている。

 会場には古萩の茶陶から現代の造形作品まで百五十点が展示、萩茶碗の造形の変遷を中心に、水差や花入など多彩な器形の作品や萩焼の確かな造形力と技倆をかい間見ることができる。

 時間午前10時から午後5時(金曜日のみ午後7時、休館日月曜日)。入館料一般1000円、大学・高校生800円、中学・小学生600円。

 問い合わせは、サントリー美術館(03-3470-1073)まで。

(2001.01.24 民団新聞)



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