民団新聞 MINDAN
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在日へのメッセージ

明珍美紀(毎日新聞・社会部記者)



◆孤高の画家への思い

 「あなたに大切なものを見せましょう」。在日朝鮮人の作家、呉炳学さん(77)=川崎市=は一冊の古びた雑誌を差し出した。表紙には油絵で描かれた仮面の踊りの絵。「季刊まだん」という同人誌だった。

 <特殊な環境社会に育まれてきた在日同胞は、共通の原点に立って、共に語り、論じ、かつ興じたいという衝動おさえ難く、ひとつの『広場(マダン)』を求めてやまない。わたしたちはこのような在日同胞の願いを充たし、相互不信を取り除く作業をとおして、1日も早い祖国統一の日を迎えたい――>


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 刊行の言葉にはこんな思いが綴られていた。

「友人の金宙泰、金両基と私の3人で1973年に創刊しました。表紙は私の絵。これを出した時、在日の南北、双方の組織から批判を浴びました」と呉さんは振り返る。年4回発行の雑誌は、資金難に陥ったこともあり、わずか6号で廃刊になったという。


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 宙に浮いた3人の思いが、28年の歳月を経て結びついた。21世紀の幕開けに刊行された呉さんの画集。セザンヌを「わが師」とし、独自に創作活動を続ける孤高の画家の作品を「在日の文化遺産として次世代に残したい」と在日韓国・朝鮮人が組織の枠を越えてカンパを集め、刊行にこぎつけた。写真家の新井利男さん(60)ら日本の友人たちも協力した。画集には、風景や静物、裸体、朝鮮民族に伝わる白磁器や仮面など、約二百点が収録されている。


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 東京に大雪が降った1月27日、画集の刊行記念パーティが新宿で開かれた。韓国からも駆け付け、約150人が祝福した。呉さんに呼び出され、「まだん」を見せてもらったのは、その数日後のことだ。

 「私には平壌とソウルで個展を開く夢がある」と呉さん。「南北の画家が力を合わせ、民族の芸術の発展に寄与してほしい。この画集がその橋渡し役になれば…」と目を細めた。

(2001.02.14 民団新聞)



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