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永住外国への地方参政権

日本各界に意見を聞く
山田文明さん(大阪経済大学助教授)



▼参政権は在日同胞の生活にどんな意味がありますか。

 1959年から始まった「帰国事業」で北朝鮮に帰った人たちが約十万人いる。日本に残った家族から「帰国者」の実情を聞くと、行方不明になったり、スパイ罪をでっち上げられて強制収容所に送られたり、殺されたりしている。これほど重大で深刻な人権問題が、なぜ日本で表面化しないのかというのが大きな疑問だった。

 「帰国者」が人質のように扱われ、家族が直接問題解決に当たれないなどの困難さがあるにしても、日本で生活している人たちの人権に関わる問題は、日本の社会問題だ。にもかかわらず、日本の政治を動かす立場にある政党や政治家などが、選挙の時にこういう問題を訴えたことがあるか、というと全くない。

 声をあげたくてもあげられない生活条件にある人の声を代弁するのが政党ではないのか。政党がこの問題に敏感に反応せず、目を向けてこなかったのは、選挙で一票をどこで獲得するかに視野が奪われてしまって、一票になるかどうかにかかわらず、何が問題なのかをじっくり考える性格が抜け落ちているからだ。

 政党は日本の社会問題を政治の前に引きずり出さなくてはならない。そのためには仕組みが必要で、仕組みから何が抜け落ちているのかを考えると、永住外国人の参政権問題に行き当たると思っている。


▼「在日」の問題解決に参政権は有効だというわけですね。

 永住外国人に地方の首長や議員の選挙に一票を投じる権利があれば、当然候補者はこのような「在日」の問題に目を向けないわけにいかなくなる。問題の本質を勉強するし、議論もなされる。参政権がないために、それをこれまで放置する結果になった。

 永住外国人だけの問題にとどまらない。朝鮮半島との関係だけで言っても、「帰国者」の中には、日本人妻や日本人夫が数は少ないけれどいる。その家族、親族がたくさん日本にいる。

 また、「在日」の若い人の結婚問題を考えると、九割近くが日本人と結婚している。当事者および親族まで含めると、おそらく百万人を超える人たちが、「帰国者」の問題と深く関わっていると言える。

 さらに、人口の四分の一が「在日」という大阪市の生野区を例にとれば、地域自体が日本国籍者だけで論じられない状況になっている。

 ところが、選挙になると政党や市長、議員の候補者が、その地域の「在日」に話を聞きに来るだろうか。おそらく選挙期間中は一票のない「在日」に対して無関心でしょう。つまり、「在日」の民意は反映されないということになる。


▼生野区で被選挙権を認めると「在日」の議員が誕生する可能性があります。その一方で、選挙権よりも国籍取得緩和の動きも出ています。

 そこに住む住民の意向が反映されればいい。日本での生活が永続し、それが通常の状態ならば、日本の参政権をもつべきで、地域の政治に参加するのは当然のこと。それは人権の一つだ。

 人権と国権では人権が優先するという判断をしなければならないが、日本の場合、残念なことに人権意識や人権と国権の相関関係についてまだ国民の中にコンセンサスがないのが現状だ。

 民族性というのは人権の一部で、自然属性で生まれた時から決まっているもの。それは尊重されなければならない。どこの国籍をもつかというのは個人の固有の権利であって、それを誰かから強制されたり、排除されたりしてはならない。

 日本の植民地支配と同化政策などから、「在日」は日本の国籍を取得するのに抵抗感があると思う。参政権と国籍取得の問題は別の問題として整理すべきだ。


◆◇◆プロフィル◆◇◆

山田文明(やまだ・ふみあき)1948年、滋賀県生まれ。大阪経済大学の助教授。中学、高校時代に安保闘争、ベトナム戦争など学園紛争をテレビで見た世代。高校時代に北韓に関心を強め、バスを仕立てて映画『チョンリマ』を見に行った。その後、北韓の現実を知って衝撃を受け、現在は「北朝鮮帰国者の生命(いのち)と人権を守る会」関西支部の事務局を務めている。

(2001.02.14 民団新聞)



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