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未来の見えない教科書



 私たちが歴史から学ぶのは未来を考えるため。現在抱えている問題がどういう歴史的淵源で成立しているのか、過去の歴史をひもとくことで見えてくることも多いからだ。「歴史は科学」といわれるゆえんもここにある。

 ところが、これを真っ向から否定、「歴史は日本国民が共有する物語」との立場から自分たちに都合のよい事実だけを紹介する教科書が、来年から日本の各公立中学校で使われそうだ。

 問題の申請本図書は、近現代に関わる記述で「韓国併合」が日本の安全のために必要、かつ合法的だったと強弁。当時、韓国国内で賛否両論があり「反対派の一部から激しい抵抗も起こった」としながらも、抗日義兵闘争には一切言及していない。

 ましてや創氏改名や強制連行、徴兵といった記述はすっぽり抜け落ちている。これでは植民地支配の事実そのものがなかったことになりかねない。関東大震災の時に多数の韓国人が虐殺された事実にも触れていない。

 一方で、古代から国民国家だったという叙述に重きを置き、神武天皇を初代とし124代昭和天皇まで19人の天皇を登場させている。これは森首相の「天皇を中心とする神の国」発言とも重なり、露骨な排外主義を感じる。

 果たして神武天皇が存在したのかどうか。物語としてはいくら面白くても、公的な教科書に不確かな事実を書いていいというものではあるまい。

 この申請本教科書で学ぶ子どもたちが将来、在日韓国人を始めとするアジアの隣人といい関係をつくっていけるのだろうか。かつてなく良好な韓日関係に水を差されそうな気がしてならない。これは韓日両国にとってお互いに不幸なことだ。(K)

(2001.02.28 民団新聞)



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