民団新聞 MINDAN
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永住外国への地方参政権

日本各界に意見を聞く
針生一郎さん(美術評論家連盟会長)



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大国ほど共生国家
北欧諸国は2年で市民権

▼選挙権法案に反対する層をどうみますか。

 自民党の中に敗戦以来、清算していない天皇親政国家、単一民族国家という神話が残っており、支持層もそういうところにある。しかし、今や選挙の結果を見てもかなり少数になっている自民党が、現有勢力をかろうじて維持しようという危機感から反対しているにすぎない。すべての改革を先送りしているのが現在の政府だが、そうすればするほど自民党支持は減り、次の選挙では決定的な敗北をするだろうと思う。

 日本の肉体労働の現場などは、今やアジア人が担っている。中小企業は特にそうだ。ノルウェーやスウェーデンなど、北欧諸国は2年定住すれば、市民権を与えるという。そういう方が現実に則している。出稼ぎ、亡命を含め、現代は民族の移動が激しいし、どこでも共生国家になっている。大国ほどそうだ。

 GHQの占領が終わった後に憲法の人権条項、不戦、非武装条項などを空洞化し、ずっと戦前の国家の延長みたいに言いくるめ、実質上そのようにさせてきたのが保守政党だ。だが、そのやり方では日本国そのものが存続しなくなり、経済的にも借金王国で滅びるほかないという所にまで来てもなお自党の党派的な利害だけに固執しているというのが自民党だ。本当に困ったものだ。

 加藤紘一の反乱が挫折したのを見ると、いい自民党というのはなく、すべて利権集団と化している。おこぼれでもそこにつながっていたいということからも改革を渋る態度が見えてくる。それに終止符を打たないと歴史は変わらないと思う。


▼有事の際にどちらの国に忠誠を誓うのかという意見や
  日本人か、外国人かの感情的な二分論については…。

 アメリカの軍事戦略に日本が完全に植民地のように従属して、アメリカが世界の警察であるかのように局地紛争が起こると軍を出動させ、日本も周辺有事ということで自衛隊を出動させるという仕組みになっている。

 日本はあらゆるものが自給自足できない、食糧をはじめ輸入に頼る国にさせられた。60年安保の自動延長とアメリカの余剰農作物の大幅輸入は表裏一体で、日本は減反政策で田圃をつぶしてゴルフ場にするなど、農業政策が一番矛盾をはらんでいる。食糧自給率28%、石油輸入量世界一、二位の国で戦争なんてできるわけがないのに。

 石原慎太郎は自民党に見切りをつけて新党を結成しようとする野望があるのではないか。もともと青嵐会に属していたかなり右寄りだから、ブレーンに右翼のような人間もいるようだし、かなり意図的に「三国人発言」を打ち出したのだろう。

 また、新自由主義と称する連中が自虐史観を排すというキャンペーンを盛大に繰り広げ、その連中の歴史教科書が各地方議会で続々採択決議されている。過去の戦争の残虐な加害の側面を忘れさせて、大日本帝国の栄光をそのまま継続したいということだろうが、できるわけがない。敗戦の時に否定したはずのナショナリズムを今頃また復活させようとしているのは、文化の根幹に関わる問題だ。それではアジア諸国の批判に応えられないし、国際化に対応できない。

 日本は昔から共生国家だった。例えば、朝鮮半島から来た渡来人は日本の王朝の高い地位に就いて重用された事実もある。現代では、個人的なアイデンティティ探しのためや家族や民族、国家などを日本人作家は扱わなくなったが、在日文学は日本語で書かれていてもそこをしつこく突き、パースペクティブを明確にし、日本語の表現、文学を豊かにした。映画もそうだ。同じように、民族が違う人が政治に関わると、国内で自浄能力がないからこそいいショックを与えられることが多いのではないか。


■□■プロフィル■□■

 針生一郎(はりう・いちろう)

 1925年、宮城県生まれ。東北大学で国文学、東京大学大学院で美学を専攻した。多摩美術大学、和光大学、岡山県立大学大学院教授を経て、現在は美術評論家連盟の会長。新日本文学会の代表世話人の一人でもある。死刑判決をうけた韓国の詩人、金芝河を救うためにハンストなどの救援活動に関わった。2000年5月の光州ビエンナーレでは「芸術と人権」という特別展示で日本人として初めてキュレーターを務めた。

(2001.02.28 民団新聞)



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