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歴史認識を改めて問う



 平和と人権の世紀と言われる21世紀の最初の年の検定の過程で明らかになった中学歴史教科書の内容は、私たちに驚きと強い懸念を抱かせましたした。

 従来の近・現代史の内容から、アジア諸国に対する「侵略」の記述だけでなく、我が国に対する植民地支配の政策などの記述も大幅に減少したといいます。


■歴史の証人としての在日韓国人

 特に、現行の教科書の内容が自虐的だとする「新しい歴史教科書をつくる会」の申請本にいたっては、大幅な修正指導をしたとされますが、史実を歪曲した荒唐無稽な記述だけでなく「アジア諸国が欧米の植民地から独立する契機となった」とする内容にいたっては、日本のアジア侵略を隠蔽し、植民地支配の正当化と太平洋戦争さえ肯定しようとする意図は明らかでこのような事は到底、黙過できません。

 森総理大臣の「神の国」発言や石原東京都知事の「三国人」発言、そして野呂田衆議院議員の「解放戦争」発言など、日本の一部保守的指導者達の発言とあいまって、あたかも戦前に復古するかの印象を与えており、その歴史認識に危惧の念さえ禁じ得ません。

 在日韓国人は、日本のアジア侵略、とりわけ韓半島を植民地支配した結果、日本に居住するに至った当事者とその子孫です。

 解放後、民族団体を結成し、植民地史観の延長線上の誤った教育による苦い体験を子ども達に残してはならないという思いで今日まで活動の多くを費やして来ました。

 徴兵・徴用や強制連行による犠牲者、関東大震災時の虐殺事件などの歴史的事実を明らかにする努力や創氏改名による日本名から民族名の回復など、植民地時代の残滓の克服に努めて来たのです。そして、このような韓日・日韓の不幸な歴史を克服するためには、相互理解が何よりも不可欠であるという立場から市民レベルの親善友好活動に力を注ぎました。


■歴史教科書で問われるもの

 今日では、心ある多くの日本人や関係諸団体によって事実にもとづいた歴史認識も高まり、差別事例の多くが克服されつつあります。

 さらに、金大中大統領の訪日や韓国での日本文化の解放、そして来年に迫りましたワールドカップ韓日共同大会などによって、かつてないほど双方の理解が増進しております。

 アジアは勿論、世界の中で主導的な役割りを期待されている日本にとって、グローバルな地球時代に対応する次世代の育成は大きな課題であります。

 私たちも日本の公教育の場に子弟の教育を託している以上、歴史教科書に次のような願いを持っています。

 20世紀の悲惨な歴史の要因のひとつである自国・自民族至上主義の歴史観は、繰り返されてはならないと考えます。次に、教科書検定における近鄰諸国条項の経緯と趣旨が活かされて欲しいと願っています。

 さらに、日本でも内閣総理大臣が本部長に、文部科学大臣が副本部長として推進し、成果を挙げつつある「国連人権教育10カ年計画」の精神が活かされて欲しいと願っています。

 そして何よりも、過去の歴史は、事実にもとづいて正しく伝えられるべきであります。グローバルな時代、アジアの時代に対応する相互理解と尊重の精神が育まれ、多民族・多文化共生社会をめざす人材の育成が可能となる教科書を心から期待します。

(2001.03.07 民団新聞)



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