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2002年度中学歴史教科書問題

民団、文部相に「適切な措置」要望



日本の中学歴史教科書問題で
要望する鄭夢周・民団中央本部事務副総長
(左から4人目)と傘下団体代表

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過去正しく理解し真摯な対応を
民団が強い懸念

 民団中央本部の鄭夢周事務副総長兼文教局長は5日、韓国商工会議所、婦人会、体育会、青年会、青年商工会中央の代表と共に日本の文部科学省を訪問し、町村信孝文部科学相への金宰淑中央団長名の「2002年度中学歴史教科書に対する要望書」を提出した。この中で、(1)日本の検定基準のなかにいわゆる「近隣諸国条項」が設けられた経緯と趣旨をふまえた(2)「国連人権教育10カ年計画」の精神が反映され、多民族・多文化共生社会をめざす教材となるよう要望。同時に、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆にかかわった申請本に対して「適切な措置」を引き続き要望した。(「要望書」全文2面に)

 民団は「要望書」で「在日韓国人の子どもたちが自分の民族的アイデンティティを大切にし民族差別と偏見に負けないで成長することを願う私どもは、昨年から今年にかけて、森総理大臣の『神の国』発言をはじめ、石原東京都知事の『三国人』発言や野呂田衆議院議員の『解放戦争』発言など、歴史認識が問われる発言が相次いだことから、2002年度教科書検定について、関心を持ち注視してきた」と明らかにした。

 特に「来年に迫まった2002ワールドカップ韓日大会により、かつてないほど韓日・日韓の友好ムードが高まっていた矢先の出来事(歴史のわい曲やバランスを欠いた記述が少なくないとされる教科書問題の浮上)で、驚きとともに強い懸念の思いを表明せざるを得ない」と指摘。「日本の公教育の場に子弟の教育をゆだねている在日同胞の立場」から、中学歴史教科書に対する要望を行ったもの。


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多民族・多文化共生社会めざす教科書に

 「旧日本帝国時代におけるアジア諸国に対する侵略の事実を隠蔽、あるいは正当化するような記述は、時代に逆行する。グローバルな、地球時代に対応する次世代の育成に求められるのは相互理解と尊重の精神である。このような精神は過去の歴史を正しく理解することからはじまる」と表明。

 「新しい歴史教科書をつくる会」の申請本について、「検定過程で大幅に修正指導をされたと報道されているが、荒唐無稽な歪曲史実をあたかも事実のように取り上げ、日本でしか通用しない内容が含まれていたことに時代錯誤の感すら覚える」とし、「記述内容もさることながら、その意図するところ、戦前に復古するかの印象を与える教科書は、アジア諸国をはじめ、ひいては世界の国々にも新たな誤解と偏見を生み出す要因となり、到底、容認することはできない」と強調。

 その上で、「中学歴史教科書検定過程において、日本国内をはじめ、アジア各国から巻きおこっている抗議の声」と民団の要望を斟酌して真摯に対応するよう、文部教育省に強く要望した。


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2002年度中学歴史教科書に対する要望書(全文)

文部科学大臣 町村信孝殿

 21世紀を担う子ども達の望ましい成長を願い、日々研鑽と努力を重ねておられる町村信孝大臣殿をはじめ担当各位の方々に心から敬意を表させていただきます。

 在日韓国人の子どもたちが自分の民族的アイデンティティを大切にし民族差別と偏見に負けないで成長することを願う私どもは、昨年から今年にかけて、森総理大臣の「神の国」発言をはじめ、石原東京都知事の「三国人」発言や野呂田衆議院議員の「解放戦争」発言など、歴史認識が問われる発言が相次いだことから、貴省におかれましての2002年度教科書検定について、関心を持ち注視して参りました。

 すでにご承知のことと存じますが、私たち在日韓国人は、日本のアジア侵略、とりわけ韓国を植民地支配した結果、日本に居住するに至った当事者とその子孫であります。解放後、在日本大韓民国民団を結成し、今日までの活動の多くを植民地史観の克服と在日同胞の権益擁護運動に努めて来たと申し上げても過言ではありません。徴兵・徴用や強制連行による犠牲者、関東大震災時の虐殺事件など、歴史的事実を明らかにする努力や、創氏改名によって使用するにいたった日本名から民族名の回復など、植民地時代の残滓の克服に努めて来ました。その一方で、このような過去の不幸な歴史を克服するためには、韓日・日韓の相互理解が何よりも重要であるとして市民レベルの友好親善活動に力を注いで来ました。

 今日では、心ある多くの日本人や関係諸団体の努力によって韓日間の事実にもとづいた歴史認識も高まり、韓日・日韓の理解が増進、民族的な偏見による差別事例の多くが克服されて来たことも周知の事実であります。

 特に、1994年に国際連合で採択されました「国連人権教育10カ年計画」が、貴国の内閣総理大臣を本部長に、町村大臣殿が副本部長として、差別事象の撤廃と国際理解教育を積極的に進められておられることや、来年に迫まりました2002ワールドカップ韓日大会により、かつてないほど韓日・日韓の友好ムードが高まっていた矢先の出来事で、驚きとともに強い懸念の思いを表明せざるを得ません。

 日本の公教育の場に子弟の教育をゆだねている私どもの立場から、このたびの中学歴史教科書に対しまして、次のように要望をいたします。

一、1982年のいわゆる教科書検定問題をきっかけに「近隣諸国条項」が設けられた経緯と趣旨をふまえた教材となるよう要望いたします。

 戦争と革命の世紀と称されました20世紀の悲惨な歴史の要因のひとつが自国・自民族至上主義の歴史観に求められると承知しております。旧日本帝国時代におけるアジア諸国に対する侵略の事実を隠蔽、あるいは正当化するような記述は、時代に逆行するものと考えます。インターナショナルな時代からグローバルな、地球時代に対応する次世代の育成に求められるのは相互理解と尊重の精神だと思います。このような精神は過去の歴史を正しく理解することからはじまるものと思います。

二、「国連人権教育10カ年計画」がめざす教材となるよう要望いたします。

 すでに7年目を迎えました人権教育計画は、日本全国で大きな成果をあげており、民族的偏見と差別の体験者であります在日韓国・朝鮮人の保護者にとりまして、大きな喜びであります。貴省がすすめております人権教育10カ年計画の精神が具体的に反映され、多民族・多文化共生社会をめざす教材となるよう心から要望いたします。

三、いわゆる「新しい歴史教科書をつくる会」の申請本に対しましては適切な措置を引き続き要望いたします。

 検定過程で大幅に修正指導をされたと報道されておりますが、荒唐無稽な歪曲史実をあたかも事実のように取り上げ、日本でしか通用しない内容が含まれていたことに時代錯誤の感すら覚えます。記述内容もさることながら、その意図するところ、戦前に復古するかの印象を与える教科書は、アジア諸国をはじめ、ひいては世界の国々にも新たな誤解と偏見を生み出す要因となり、到底、容認することは出来ません。

 21世紀におきまして日本は、アジアは勿論、世界の中で主導的な役割を期待されております。自民族至上主義の教科書は、決してプラスとはならないと思います。少なくとも北東アジアにおきまして、互いの理解を深め合うために歴史教科書の共同研究等を求める声が高まることに期待を寄せさせていただきます。このたびの中学歴史教科書検定過程におきまして、日本国内をはじめ、アジア各国から巻き興っている抗議の声と、上記いたしました私どもの要望を斟酌され、貴省の真摯な対応を切に要望いたします。

2001年3月5日
在日本大韓民国民団中央本部
団長 金宰淑

(2001.03.07 民団新聞)



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