民団新聞 MINDAN
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永住外国人への地方参政権

日本各界に意見を聞く
谷口源太郎さん(スポーツジャーナリスト)



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地方自治強化へ力
在日との共生意思明確に

 ▼永住外国人の参政権を否定する人たちの考えの根幹は何でしょうか。

 日本という国の歴史的な形成過程の中で、縄文時代からの朝鮮半島との様々な交流が重要な意味を持っていた。そうした朝鮮半島との深い関わりについての歴史的認識が不十分であるばかりでなく、歴史が歪めて伝えられてきた。その象徴が単一民族国家論だ。歴史的にまったく誤りであることが立証されているにもかかわらず、森首相の「神の国」発言に示されるように、「単一民族国家」という誤った認識がいまだにまかり通り、他民族を排除、差別する根拠にされている。

 朝鮮半島の人たちは様々な文化をもたらし、日本列島をともに築き上げてきた。それにもかかわらず、なぜ、単一民族論に収れんされたのか。明治時代以降、為政者は、近代国家づくりのために日本を単一民族の島国とし、海洋を国境とみなして海軍力の強化を推進したのだ。海洋が異文化交流の架け橋として世界に開かれたものであった歴史を改めて認識し直さなければならない。

 明治時代の近代国家づくりは、天皇を中心とする単一民族国家のイデオロギーに基づいており、朝鮮人は、排除や差別の対象とされた。

 歴史的に積み重ねられた誤った認識による差別観は、現在にいたるまで根強くある。しかも、その差別意識は、戦後の保守政権を支えてきた政治家ばかりでなく、草の根レベルにまで広く存在している。戦後日本の民主主義を実りあるものにしていくためには、いまだに「在日」の参政権を認めようとしない、根底にある差別意識を直視し、その克服の道を明確に示さなければならない。

 日本列島に住む人間が真に豊かな社会を築くためには、永住外国人との「共生」は不可欠のことである。これまでの中央集権の時代か地方自治の時代へと流れが変化してきており、その流れのなかで永住外国人の参政権は、地方自治を促進する大きな力になる。


▼反対派の動きと関連して、日本の右傾化が気になりますが…。

 選挙権法案に反対する動きと「新しい歴史教科書をつくる会」、いわゆる「自虐史観」を持ち出す知識人、文化人の動きがピッタリ一致している。彼らの歴史修正主義が戦前の国家主義へ逆戻りする動きを作りだしている。国会に憲法改正を狙う「憲法調査会」までできてしまった。これは民主主義を促進するうえで大きな打撃だが、同時に平和憲法を実あらしめるための努力を強く促すことにもなった。

 日本の民主主義はまだまだ未成熟だ。民主主義を支える自立した市民が育つためには、国境を越えた様々な交流が必要だ。特に、これまで目を向けてこなかったアジア、中でも一番近い朝鮮半島の平和定着のために日本は、侵略戦争、植民地支配についての責任を果たした上で、積極的に交流していかなければ相互信頼の関係は築けない。今のままでは日本は、アジアの中で孤立し、取り残されていくしかない。そうした意味からも在日の人たちの参政権を認めることを通して「共生」の意思を明確に示すことができる。

 ただ、世論形成に大きな影響力をもつメディアや知識人などの社会に対する批判や監視の力が弱化しており、新ガイドライン法、国歌・国旗法など平和・民主主義を脅かす重大な法律をやすやすと成立させてしまった。これらの法案の制定とともに、「憲法調査会」や「教育改革国民会議」設立など一連の動きは、新たな国家主義の台頭を示している。こうした中で参政権を求める動きは、新国家主義を推進する側に極めて本質的な問題を提起したものと言えよう。言い換えれば、永住外国人の要求は、闘うべき相手を明確にするとともに、その正体をも浮き彫りにしたのだ。


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プロフィル

 谷口源太郎(たにぐち・げんたろう)1938年、鳥取市生まれ。早稲田大学中退。雑誌記者を経てフリーのスポーツジャーナリスト。メディアを通じてスポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。94年から95年にかけて東京新聞夕刊に連載した「スポーツ・ウォッチング」で94年度「ミズノ・スポーツライター賞」を受賞。立教大学、上智大学非常勤講師、メディア総合研究所研究員。著書に「冠スポーツの内幕」(日本経済新聞社)などがある。

(2001.03.14 民団新聞)



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