民団新聞 MINDAN
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永住外国への地方参政権

日本各界に意見を聞く
森 正さん(名古屋市立大学教授)



▼参政権は「国民固有の権利」という反対意見をどうみますか。

 私は外国籍者を含めての概念である「市民」の人権保障をさらに拡大していくという立場だが、それに反対したい人がよく使う手として、「憲法違反だ」「本当は実現したいけど、憲法の壁がある」という形で憲法違反説を持ち出す。保守政治家や体制迎合的な知識人にみられる傾向である。永住外国人の参政権問題を憲法違反だと、大声で反対する憲法学者は私が知る限り最近ではほとんどいないのではないか。


▼憲法学という視点からみてどうですか。

 これまでの憲法の支配的な学説は、参政権問題と社会権保障の問題、それに入国の自由の問題、この三つはそれ以外の人権保障の問題と比べ、「永住外国人には壁が厚い」と言われてきた。「参政権は国民主権原理にそぐわない」「社会権はもともとの母国で受けるべき人権だ」「入国の自由は日本国が独自に裁量行為として判断できる」というわけだ。

 それに対して私の基本的な立場はこうだ。「在日」の人たちは、日本で長年住んでいて今や三、四世の時代を迎えている。しかも、もっぱら日本国のかつての植民地主義、侵略主義の犠牲によって日本に住まわざるを得なくなった人たちだ。その人たちには、日本国籍を有する人間と限りなく同じように人権保障をすべきであって、そういう視点からの憲法解釈は憲法を守り育てるという意味で合理的で、前向きな解釈だ。

 民族や文化的な違いがあっても、生活の実態、生活の基盤が日本人と同じで、当然、政治のあり方に関心を持たざるをえない人たちになぜ参政権が認められないのか。外国から我が家のある日本に帰ってくるのに、外国籍だからといって入国の自由が制限されるのは、説明がつかない。生活保障を受けたければ、母国に行けばいいというのも現実的ではない。日本で保障されてこそ意味のある権利なのだから。

 日本の文化や経済、政治に対して日本人が関心を持つように、「在日」も関心を持つのは当然だ。生活に関わる問題で権利が保障されていないのはおかしい。国際化と言われ始めたのがもう20年位前だが、参政権問題をきっかけに、今や日本社会を柔構造に変えていくことを真剣に考えるべきだ。そのためには国民の意思決定も様々な価値観を持った外国籍の人たちからの問題提起を受けとめて生かしていくことが重要で、そういう時代に入っている。

 さらに、かつての日本による植民地支配、いやおうなしに日本人にさせられていた朝鮮民族や台湾の人たちと日本との関係で言うと、その支配が崩れた戦後、日本はイギリスやドイツのようには国籍選択の政策を取らなかった。つまり、間違った外国人政策を今日まで続けてきた。平和条約締結の時に、日本政府はサボタージュして国籍選択権を「在日」に保障しなかった。


▼国籍取得緩和法の動きも出ていますが…。

 「参政権がほしければ帰化すればいい」という相も変わらない乱暴な議論の延長だと思うが、帰化と自由な国籍選択権は基本的に違う。今になって政府が「国籍選択」を見直すということを考えはじめたとは思えない。「在日」の人たちの地道な運動、福井や大阪での裁判闘争などの要求があったからこそ今日の議論の高まりがあり、それに危機感を覚えて苦し紛れの対応として出したに過ぎない。

 「帰化すれば認める」というのでは、これまでの日本人と外国人の「住み分け」と何ら変わりがない。「共生」の原理とも相容れないものだ。


■□■プロフィル■□■

 森 正(もり・ただし)1942年、和歌山県生まれ。中央大学法学部卒、名古屋大学大学院中退。現在、名古屋市立大学教授。専攻は憲法学。戦前、戦後を通して韓民族の人権を擁護し、「日本人シンドラー」と称されて韓国で顕彰されつつある弁護士・布施辰治研究がライフワーク。著書に『治安維持法裁判と弁護士』(日本評論社)『私の法曹・知識人論』(六法出版社)など、編著に『マルセ太郎 記憶は弱者にあり』(明石書店)がある。

(2001.03.28 民団新聞)



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