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永住外国人への地方参政権

日本各界に意見を聞く
小栗 実さん(鹿児島大学教授)



▼永住外国人の参政権問題を憲法学者の立場からどう見ますか。

 17世紀の英国で「権利章典」がつくられ、18世紀の米国の独立革命、フランス革命を経て近代憲法の歴史が始まった。

 その時に一番問題になったのが、税金の問題で、当時、庶民は納税しても王が代表を選びもしないし、審議もしなかった。そこで庶民が革命を起こし、王制を打倒して近代憲法をつくった。

 納税者の権利として代表を送るべきだというところから近代憲法はスタートしている。すなわち「代表なきところに課税なし」ということだ。

 日本に住む永住外国人も法人税、所得税、固定資産税などを支払っている。その税金がどのように使われているかを納税者として知る権利がある。選挙権を持ち、代表を選び、議会を通じて調査したり、問いただしていくのは当然だ。


▼住民投票との関連ではどうでしょうか?

 鹿児島では93年に大洪水が起こり、江戸時代からある五つの石橋のうち二つが流されてしまった。残り三つの橋をどうするか。市民の側は残す立場から、県は壊す立場で対立した。そこで住民側が住民投票条例をつくって決めようという提案をした。

 鹿児島では残念なことに住民投票条例は制定できなかったが、新潟県巻町では、原子力発電所の問題、岐阜県御嵩町では、産業廃棄物処分場建設の問題をめぐって住民投票が行われた。

 ところが、地域の中での生活や環境に直結している問題なのにもかかわらず、今の制度では外国人は省かれている。地域社会にともに住む人たちの権利、利益という観点から考えれば外国人排除はおかしい。街づくりが地方自治の重要な課題の一つだが、もっといい街や社会にしてほしいと願うのは外国人も同じだ。


▼選挙権法案成立を前にして反対論が目につきます。

 「教科書問題」しかり、ガイドライン法、日の丸・君が代問題しかり、石原都知事の言動も含め、ナショナリズムを支えにして巻き返そうという動きが出てきた。

 しかし、過去に押し戻そうとする彼らの力だけが強くなったのではない。日本社会は全体で見ると60年代以降、市民の権利を主張する力が強まってきたと思う。

 在日外国人の人権も指紋押なつ問題をきっかけとして、大いに語られるようになった。われわれ憲法学者も外国人の人権を意識し始めた。憲法は地方選挙権の立法化を許容しているというのが、今では通説になってきている。

 地方選挙権はたんに在日外国人の問題のみならず、憲法をめぐる大きな運動の一つだ。憲法を暮らしに生かしていく運動のひとつだといってもいい。

 有事の際の国家への忠誠心を反対理由にする議員もいるが、日本国憲法はそもそも有事を前提にしてつくられていない。憲法はまずは個人の尊厳を立脚点にしており、基本的人権を実現するために政府や国会がどうすべきかを考えるべきだ。


■□■プロフィル■□■

小栗 実(おぐり・みのる)

 1951年、岐阜県出身。名古屋大学大学院法学博士課程卒業。現在、鹿児島大学教授。専攻は憲法。天皇の代替わり儀式、大嘗祭が憲法の政教分離原則に反するとして提訴された違憲訴訟など地域の憲法運動を応援している。

(2001.05.16 民団新聞)



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